姫子が暮らす1LDK。
そのリビングで過ごしている時、見られているような気配を感じるようになったのは、3ヶ月ほど前からだった。
気のせいではないと確信するほど頻繁に感じる、他人の熱量を持った視線。
相手がおそらく男であることも、下心を持って見られていることも、姫子は察していた。
視線は生々しく肉質的なので、隠しカメラではない筈だ。
休日や夜間が特に多く、遠くから姫子の私生活を覗き見している。
昔からの癖で、在宅中はカーテンを閉めることはほとんどない。
隣接する別のマンションのどこかの一室から、姫子をよこしまな目で見つめてくる存在がいる。
その事実に怯えて気味悪がるどころか、――姫子はひどく興奮した。
(知らなかった…私ってこんなヤバい性癖持ってたんだ…)
覗き見られていることを意識して、姫子はなに食わない顔で生活を続けた。
カーテンは閉めない。
わざとリビングで着替えた。
下着姿を降り注ぐ視線にさらした。
お風呂に入った後、素肌にタオルを巻いただけの姿で歩き回る。
その時にわざとタオルを落として、裸体をさらしたりもした。
自分のこんな姿を見て、興奮している存在がいる。
そう思うだけで気持ちが昂った。
日に日に欲望を増していく熱のこもった視線がたまらない。
粘りつく眼差しに犯されていく。
もっと見て、もっと犯して。
ギラギラした目を向けられたくて、いつしか姫子は、リビングのソファでオナニーに耽るようになっていた。
「っはぁ…ぁ…っ、ん…、んっ」
仕事から帰ってきた格好のまま、興奮して発情した体を自ら弄ぶ。
窓へ体を向けて無防備な姿をさらす。
両足を大胆に開いて、濡れて指を咥え込む恥部を、視線の相手に見せつけた。
きっと頭の中で犯されている。
オナニーのネタにされている。
押し寄せてくる絶頂に、姫子はひくひくと震えた。
体をくねらせて悶えて、腰を浮かせて爪先を突っ張って。
「あっ、あ、いく…っ、いくっ」
大袈裟なほど体が跳ねた。
早鐘を打つ心臓の音と荒い呼吸が、まるで遠くで聞こえているようだ。
両足を開いて指を差し入れたまま、余韻に浸ってしまう。
絡み付いてくる視線に犯される快感に、姫子は夢中になっていた。
* * * * *
覗き魔に自ら視姦されて楽しむ日々を過ごしていた姫子は、この夜も見られながらオナニーをする気だった。
『どんな風に見せつけよう…』そう考えながら夜の帰路を歩く。
マンションの前に着いたときに、ふと、あの視線を感じた。
(――近くにいる…)
大きく心臓が跳ね上がった。
姫子は普段通りを装いながら、エントランスを通り、エレベーターに乗る。
自室のある階で降りて振り返り、エレベーターの表示灯を見た。
直ぐにエレベーターが1階へと降りていき、再び登ってくるのを確認してから、部屋へと向かう。
(まさか…覗き魔が接触しようとしてやって来た…? 私のところに…?)
――何のために?
ドキドキと心臓が跳ねる。
思わず唇が笑っていた。
後方でエレベーターの到着の音がなる。
突き刺すような強い視線。
それに気付かないふりをして、姫子は部屋の鍵を開け、普段通りに玄関へ入った。
(…部屋番号を確かめに来た? …見に来ただけで、終わり…?)
これ以上はさすがに危険だ。
想像よりもひどい扱いを受けて、それこそ恐ろしい犯罪行為を受けるかも知れない。
理性はそう言いつのるのに、自分の中の欲望は好奇心を隠しもしなかった。
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