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山に囲まれた小さな田舎町にある医療施設は、離島のような診療所が一件あるだけだった。
大きな病院の現場から退いて赴任してきた壮年の医者と、この町生まれで都会から帰ってきた若い看護師。
この2人が診療所のスタッフだ。
自然が豊かという長所があるだけで、観光地もない、ごく普通の田舎町。
若い者ほど都会へと出て行きたがる。
町人は年齢のいった者がほとんどで、診療所は彼らの憩いの場としても機能していた。
「それじゃあ××さん、次は1週間後に来て下さいね。お大事に」
午前診察の最後の一人を見送って、姫子は診療所の扉を施錠した。
基本的にこの診療所での診察は午前中だけで、午後は往診になっている。
小さな町だが、それなりに忙しい。
姫子が振り返ろうとしたその時、背後からのびてきた腕によって、彼女は強く抱き締められた。
うなじにかさついた唇が押し当てられ、そのまま音を立てて吸われる。
「っん……! ぁ…先生…、ダメです、こんなところで……」
「もう誰もいないから良いじゃないか。 …耳の遠い奴らばかりだ、通りがかっても聞こえやしないさ…」
明らかに嫌がっていない甘えたような口調で、姫子は「でも…」と吐息をこぼした。
期待に濡れた、湿った呼吸。
医者である男もそれを知っていてか、女の耳朶へ舌を挿し込み、ナース服の上から豊満な胸に指を沈める。
親子ほどの年の差がある医者と看護師、…男と女。
職場である診療所で、まだ明るい時間に、彼らは“淫らな行為”に及ぼうとしていた。
――誰も知らない。
医者の白衣のポケットには、常にコンドームが入っているのを。
看護師のストッキングが、ガーターベルトでとめられたものであることを。
膝下まである「ナース服」のワンピース、その中はショーツも身に付けていない裸だということを。
2人以外、誰も知らない。
娯楽のない寂れた町で得られる唯一の楽しみとして、男と女は戯れるように、頻繁にセックスに耽っていることを。
穏やかで仕事熱心な2人の裏の顔。
――町の人は誰も知らないでいる。
「っんん…ぁ…ん…、先生…、だめ…濡れちゃうの…っ」
「いやらしい子だ…、姫子、今日もたくさん“診て”あげよう…」
待合室には消し忘れたままのクラシック音楽が流れている。
診療所の曇りガラスの填まった木製の扉。
そこへすがるように両手をついて、姫子は鼻にかかった吐息をこぼして、医者による行為を受け入れていた。
ナース服の襟元のボタンを外し、センターファスナーを下げてしまえば、“白衣の天使”は一気に無防備になる。
医者の手がゆっくりとその隙間へ差し込まれていった。
浮き出た鎖骨を撫で、薄い滑らかなスリップを指に引っ掻け、胸の曲線をなぞりながら下へ引き下ろしてしまう。
現れたブラジャーと肌の間へ指先を入れ、そのまま掌を押し込み、柔らかな胸を鷲掴んだ。
「おっぱい大きくなったね…。乳首も直ぐに勃つようになった… コリコリしてHだなぁ…」
「ん…っ、んん……、先生が…触るから…っぁ…、はぁん…っ」
一度、都会に出て看護学校に通っていた頃、それなりに恋愛をしてきた。
初めての交際で処女を失くしたし、その後も幾人かの恋人とそれぞれセックスもした。
それでもちゃんと貞操観念はあったのに。
この町に戻ってきて、何もないことを思い知って、…誘われるまま姫子は医者に体を許した。
関係はその一度だけでは終わらず、求められるまま何度も繋がりあい…。
今では所かまわず、すきあらば、セックスになだれ込んでいる。
姫子はハマってしまったのだ。
理性が飛ぶような生々しい刺激に。
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