姫子は結婚して1年もたっていない新婚にも関わらず、既に冷えきった夫婦生活を送っていた。

家庭に入る事を強く望まれ、未練はあるものの順調だった仕事を辞めた。
心残りのあるまま専業主婦にはなったが、肝心の夫は仕事で忙しく、付き合いで飲んでくるので帰りも遅い。
しかも出張の多い職種のせいで、月のほとんど家にいないのだ。

すれ違う日々。
(こんな筈じゃなかった)
付き合っていた頃、恋人同士だった頃の方が、まだ過ごす時間が多かった。
(何でこの人は平気なの?)

お互いの生活のサイクルが合わず、フラストレーションがたまり、口論に発展してしまう時もある。
好き合っていた筈なのに、愛を誓い合った筈なのに。もう分からない。
現状をどうにかしたくとも、忙しさを理由に、話し合いに応じてくれないのだ。

(分かり合う努力もしてくれない。…気持ちをやり直す機会もくれない)

心が冷えていくようだった。
結婚しても、家族になっても、心が繋がらなければ所詮は他人なんだと思い知る。
気付けば心どころか体も触れあえず、セックスレスになっていた。

女とて性欲はある。
本能としての欲求は、発散する場がなければ強くなる。
姫子は若い体を持て余していた。

――…そんな時に出会ったのが、…1人の配達員の男性だった。

『長谷川様のお宅で間違いないでしょうか? こんにちは! お荷物お届けに参りました、××便です!』

年頃はそう変わらない。
溌剌とした好青年で対応も丁寧、宅配便を受け取っている同じマンションの人達からの評判も良い。
ただ、若い男のサガなのか、人妻が好きなのかは分からないが…。
姫子に対して、下心を含んだ視線を向けてくるのには、初めから気付いていた。
会うごとに増していく“男”のあからさまな眼差し。
欲求不満を募らせていた姫子には、彼の視線はあまりにも毒だった。

彼の眼差しは、衣服をすり抜けて丸裸にされている気分になる。
素肌を這い回り、舐めて、嬲られる。
彼の頭のなかできっと姫子は、何度も何度も犯されているのだろう。
そんな視線を向けられ続けた。

……耐えられなかった。
ある日とうとう我慢できなくなり、姫子は誘うように見つめ返してしまったのだ。
配達員は直ぐにその意味に気が付いた。

『…奥さん、寂しいんですか?』
『…ええ、寂しい…』
『…俺が慰めても良いの?』
『…貴方が、貴方が慰めて…』

そして迎え入れた玄関で、姫子は心の離れた夫を裏切った。

久しぶりに感じた男の匂い、肌、体温。
はしたないほど恥部はビショビショに濡れ、気が狂わんばかりに男の愛撫に乱れた。
夫の居ぬ間に絡み合ったセックス。
仕事の合間の不埒なセックス。
済し崩しに若い体を重ね、くすぶる欲望をぶつけあった。

『奥さん、俺、ここの周辺担当なんだ。だから、――これからは、俺が慰めてあげるね…』

ひと月に数回、およそ30分。
荷物配達とその受け取り、短い邂逅で行われる禁断の秘密。
そして今日も――…。


〔 ピンポーン 〕

来客のチャイムが鳴る。
男との出会いを思い出していた姫子は、ハッと我に返った。
モニターで配達員の男を確認し、気持ちが浮わつくまま、玄関に小走りで向かってしまう。


「お荷物お届けに参りました、お名前の方、お間違いないでしょうか?」

「…はい、中にお願いします」

「失礼しまーす」


配達員が荷物を持って玄関へと入り、ガチャン、と音を立てて扉がしまった。
その瞬間。
おざなりに荷物がフローリングへと放るように落とされ、男の空いた手が姫子を抱きすくめる。
待ち望んだその力強さに、姫子もまた手を彼の背中へと回し、しがみつくように抱き返した。


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