頭がおかしくなりそうなほど、姫子は強い興奮に包まれていた。
していることは自慰なのに、掲示板のスレッドやチャットでイメプレをしながらしたものとは、何もかもが違う。
信じられないほどの愛液が溢れてきていて、姫子の下肢をグッショリと濡らしている。


『指、ふやけちゃってるかな。
グチュグチュするの気持ちいいね…。』
『イっちゃいそう?』
『でも、まだダメ。』
『まだイっちゃダメだよ。』
『――…イキたい?』
『もうイキたいよね?』
『イクときは“イク”って声に出して、俺に報告してからイキなさい。』

『良い子のお前ならできるだろう?』


姫子が目を落とすスマホの画面では、まるで姫子の様子を見計らうように、コメントが上げられていった。
最後の、言葉を崩した命令する“それ”に、姫子はゾクゾクと身震いして、強い興奮を覚えた。
煽られるように、従順に、姫子は快感を追い立てていく。


「っ、あ…はぁっ、い…く…いく…っ、あっ、イッちゃう… ご主人さま、わたし、イッちゃいます…っ」


夜の空気に姫子の興奮しきった声が放たれて、暗闇に飲み込まれ、夜風に攫われていく。
両隣は誰が住んでいただろう。
眠っているだろうか、姫子のように夜更ししてしまっていたら…。
そんなことなど考える事もできず、姫子は自分の快感を追った。
押し込んで曲げた指。
気持ち良いスポット。

は、ハァッ、ハァッ、


「いく、いく、…ッあ、…――!」


伸び上がるように振り仰いだ夜空が直ぐに真っ白になる。
目の奥がチカチカと発光して、点滅して、体が燃え上がるように熱を持つ。
太腿や腰が悶えるように大袈裟なほど跳ね、姫子の肌がわなないた。
ギシッ、ギシッ、と姫子の身悶える体を受け止めて、華奢なベッドが軋む。

ハァッ、ハァッ、…はぁー…っ、

目をつぶって俯いていた姫子の素肌に、ふと、風がそよいできて、幾分か意識が戻ってくる。
自分の熱の混じった荒い呼吸が、深夜の静かな空気に溶け出ていた。
頭のふわふわが落ち着いて、考えることが出来るようになってから、慌てて窓とカーテンを閉めた。
火照った頬も、肌も、まだ熱いまま、姫子はバスタオルで手を拭い、スマホを手に取った。


〔ご主人様〕
『ちゃんとイケたかな。』
『そろそろ気持ちいいの落ち着いた?』
『近くに鏡はある?
今の自分の顔を見てごらん。』


(…鏡?)

ローテブルに置きっぱなしの化粧用の鏡を手を伸ばして引き寄せる。
薄暗い中でも分かるほど、とんでもなくイヤらしい顔をした女が写っていた。


〔つばき〕
『…イっちゃいました。』
『エッチな顔してます。』

〔ご主人様〕
『それが本当の素顔だよ。
いやらしいのが大好きな、エッチでスケベな本当の君の姿。』
『――さて、今夜はこれでおしまいだけど、どうする?』
『メール調教、大丈夫そうな所まで続けてみる?』


耐えられそうになかったらそこで終わればいい、そんな猶予を含ませた言葉は、姫子の躊躇いを飲み込んでいった。
ドキドキと、ゾクゾクと、昂った気持ちがまだおさまらない。
あからさまな興奮も、被虐に乱れる感情も、糸を引くように続く余韻さえも。
こんなこと何もかも、始めて味わう世界だった。

姫子は指をスライドさせる。
頬が紅潮して目尻が熱い。


〔つばき〕
『メール調教、続けて欲しいです』


姫子はそう送っていた。
念のためにと作っておいたくせに、どうせ使う事なんてないと思っていたトークアプリのアカウントIDと一緒に。
沸き立つような胸の高鳴りだけが、姫子の心を満たしていた。


〔ご主人様〕
『教えてくれてありがとう!
嬉しいな、これからよろしくね。』
『次はもう少し恥ずかしいことしてみようか。』
『もちろん、気持ちいいことだよ。』


姫子はふるりと震えた。
その表情は、清純とはほど遠い、娼婦のような淫猥なものだった。


end

[≪ 前のページ]

第1話「ファースト・ステップ」up
2022/02/14

≪back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -