共働きの夫と擦れ違う生活を過ごしていたら、気付けばセックスレスになっていた。
互いに仕事疲れもあって誘い難かったのもあるし、タイミングも合わなかった。
持て余す体を1人で慰めても、相手の肌がない事で余計に渦巻いてしまう劣情。
不完全燃焼のまま積み重なっていくそれは、今にも破裂しそうなほどだ。

――そんな姫子の状況を知った友人が、ある日、そっと彼女に耳打ちをした。


『ここ、すごいらしいよ』


試してみたら?
そう秘密を分け合うように教えられたのは、不健全なサービスを行うマッサージ師の話だった。


* * * * * * * * * * * * * * *


どこにでもあるようなテナントビル。
街中に堂々と紛れ込んでいたその店は看板はなく、紹介制で、事情を知らなければ何を生業としているのか分からない。
姫子はエレベーターに乗り込み、震える指で目的の階を押した。

( これは浮気じゃない…。だって、そう…マッサージしてもらうだけだもの…浮気なんかじゃない… )

それが言い訳なのは明らかだ。
だが、姫子は引き返そうとはしなかった。


「ご予約ありがとうございます。長谷川さまですね。さあどうぞ、お入りください」


姫子を迎え入れたのは、マッサージ師らしく、白いケーシーを着た30代半ばほどの男だった。
パーテーションの奥へと案内され、シーツの敷かれたマッサージ台へと腰を下ろす。
胸は相変わらずドキドキと鳴り打ち、促されるまま姫子は上着を肩から滑り落とした。

小さく奏でられているテンポの遅い音楽。
部屋に香るエキゾチックな匂い。
とろりとした甘さの中に潜んでいるスパイシーさが、女の抑え込んできた官能を煽った。


「どうぞ、これをお飲みください。リラックスできますよ」


男が差し出してきたティーカップを少しだけ躊躇して、けれど両手で受け取って姫子は飲み干した。
依存性のあるよう物ではないとは、同僚からは聞いている。
心に残っている躊躇いや罪悪感を無くし、心も体も…本能をさらけ出させ、気持ち良くなるための物らしい。

( ああ…なんてはしたないの…、私、興奮してる… )

直ぐに効くわけではないのに、この状況が、この後への期待が、姫子を高ぶらせた。
ふ…ふ…と呼吸が乱れていく。
男に向けられる視線ひとつにさえ感じた。


「では始めましょう。どんな様子か、少し診させてくださいね。さあ…力を抜いて…」

「は、はい…。お願いします…先生…」


出した声はしっとりと濡れ、震えているくせに、甘えるような響きをしていた。
背後に回った男の指が姫子の両肩に優しく置かれる。
服越しにゆっくりと肩から腕へと何度か撫で、首筋を覆うように触れた指が鎖骨をなぞる。
その指先がやがて耳朶をそっと挟み、堪らず「…はぁ…」と息がこぼれた。

セクシャルなマッサージが続く。
じれったく、もどかしい。
それなのにこんなにも興奮して気持ち良い。

たまらず姫子が身を捩れば、その欲求に応えるように、脇腹を手のひらが下りていく。
再び上がってきた指先は裾の内側へと潜り、素肌を滑りながら衣服を捲り上げてしまう。
そのままブラのカップを押し上げ、既にツンと立っている乳首を押しつぶしながら乳房を覆い、円を描くように優しく揉まれた。


「っ…、んぅ……はぁ…ッはぁ…」


乳首を指で挟まれて揺すぶられる。
もう一方の手が姫子の太腿を撫でさすり、徐々にスカートを捲り上げていった。
薄目でそんな様子を見ながら、姫子は完全に背後の男へと身を預けていた。


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