ふたつめのあらまし@



口を閉じると、快斗がぎゅっと手を握ってくれるのがわかった。麻里沙も快斗も、何も言わない。
「……その人が運悪く麻里沙のお父さんで、私が騒いだせいであの人はお母さんを刺してしまった。怪我はさせていたかもしれないけど、私が何もしていなければ、麻里沙のお父さんの罪は重くならなかったかもしれない……」
お母さんの遺体を呆然と眺めていたら、お父さんに挨拶する人がいた。きれいな女の人と、同い年くらいの女の子。あれはきっと麻里沙だったのだ。
「そう、だったのね……」
あの場にはいなかった麻里沙だから、状況を知りたかったのだろう。幼い頃、自分の父親が刑務所に入れられてしまったのだから。
話している最中、感情的になってしまった時は快斗が手を握ってくれて、嗚咽がこみ上げたときは麻里沙が背中を撫でてくれた。
「あたし…本当にごめんなさい。あなたには、つらいことだったのに……」
「ううん…麻里沙だって、お父さんいなくなっちゃったんだもんね。悲しくて普通だよ」
麻里沙が頭を下げるので、肩を叩いた。麻里沙と会ってからは、ただ驚いていただけ。ひどいことを言われて悲しくなかったと言えば少しは嘘になるけど、本当は優しい子だと信じていた。
「……なあ、ひな?」
黙って私と麻里沙のやりとりを見ていた快斗が口を開く。
「ひなの父さんはどうしてんだ? 友起さんにひなを預けて単身赴任…とか?」
気を使ってると知れないように、微妙な表情を浮かべている快斗。好奇心と、同情。それだけなら今まで会ってきた人と同じだったけど、快斗には誰よりも、好意が溢れていた。だからこそ、最後まで話そうと決意できる。
「そうだね……お父さんの話もしなきゃ」
「あたしも、聞いてていい?」
「うん、いいよ」
ぎこちない笑顔の麻里沙に微笑む。この話が終わっても態度がかわらなければ、麻里沙と一からやり直したい。そうして今度こそ、友達になれたらいい。
「快斗、絶対手握っててね」
「わーってるよ」
話す前から手がふるえ出す。快斗は何でもないかのように私の手を握ってくれていた。
「お父さんは、ね……いないんだ。…お父さんも、って言うのが正しいのか」
それだけで、二人が緊張したのが伝わってきた。深呼吸をひとつしてから、話し始める。



[*prev] [next#]
[しおりを挟む/top]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -