discover−1
鬼がくるよ。
真っ赤な顔と、大きな目玉の。
麻衣と一緒に穴に入り、出てきた時にはもう日が暮れていた。渋谷さんが帰ると言い、あたしと麻衣が泥を払う間にも遠慮なくおいて行かれた。歩幅が行きより小さかったのは配慮だと思いたい。
「ばあちゃん、米まだある?」
「いっぱいあるから、たんとお食べ。みなさんも、遠慮せんでな」
大広間にテーブルを並べて座布団を人数分敷く。親戚の集いよりは少ないけれど、SPRは小さな事務所にしては大所帯な気がする。相場とか、わからないけれど。
「おいしい!」
「ほんまに、おいしいどすなぁ」
ぼーさんと太一がおかずを争っていたり、真砂子がお行儀よく食べていたり、賑やかな食卓だ。渋谷さんとリンさんは、ものも言わずに黙々と箸を進めている。
「姉ちゃん、みそ汁」
「ちゃんと言いな。お客さん来てるんだからしっかりしてよね」
「おかわりくれ」
「…はいはい」
太一の差し出したお椀を受け取る。ついでに他におかわりはいらないか、と訊ねると、ぼーさんがお椀を寄越してきた。
「ひなちゃんや、おにーさんにもよろしく」
「待ってて」
台所はすぐそこだけど、少しでも早くよそってあげたい。
踏み出した足元の畳が一瞬ぐにゃりと歪んだ気がして立ち止まる。何もあるはずはなく、長い移動時間で疲れたのだと頭を振った。
「お待たせー。はい、ぼーさん」
「ありがとさん」
ぼーさんは受け取ると、さっそく口を付ける。
「……浅野さん、僕にもお願いできますか?」
今まで口をつぐんでいた渋谷さんが、空のお椀を傾けながら言った。
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