この言葉はきみのためだけに


「……ズ!カズ!!」
「っつ…頭痛ぇ…」

これまでの比じゃない頭痛に、頭に手をやる。

「…ん?」

把握したのは、俺がベッドに寝かされていること。

うっすら目を開けると、ぼんやりと見慣れた人影が視界に写る。

「カズさぁぁぁん!!」
「タカ、少し静かに…」
「…せからしか」

焦点が定まったとき、目の前にいたのは昭栄だった。
みっともない顔をして叫ぶので、いつもの反射で思いっきり拳を突き出した。

「あだっ!」
「……あん?なんちゃショーエイか…」

痛みが和らいだ頭を押さえながら身を起こす。

「…病院か」

目に眩しい白さから、ここが病院であることを認識する。

「カズ、大丈夫や?練習来っとこで事故遭った聞いてきとうばい」
「…事故」

ヨシの言葉に、なぜか笑いがこみ上げてくる。

「くくっ!ヨシ、今日は何日や?」
「あ?九日やぞ」

心配そうに眉を寄せられるが、本当におかしくてたまらなかった。

戻ってきたのだ。元の世界に。
今までにないこのパターンは、そう考えてまず間違いないだろう。

「ヨシ、そこに俺ん携帯あるか?」
「おう。傷ついちゅうが」

ぽんと手渡されたそれを開く。
頭も痛むが、アスファルトに打ちつけたらしい左半身も少し痛む。

キーを操作してアドレス帳を開いた。

「……なか」

南場夏帆のアドレスはなかった。

元の世界に戻ったのなら当然かもしれないが、なんだか心に穴があいたようだった。
物足りなさを感じる。

「結局、呼べんかったな」
「なん?」
「ああ、気にせんとよ」

長い長い夢だったのだ。
そう思い込むことで、自分の感情を誤魔化した。

 

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