――ヴァルト博士が逝去して、早くも三週間が過ぎようとしていた。
それは、彼の作った――恐らく最後の作品であろう【フレン】と共に過ごした時間でもあった。
腰まで伸びた長い銀髪に、桃色の瞳を持った見目十二歳程度の少女。
元気で明るく、笑顔が絶えない女の子。
自分に、心があると教えてくれた。一緒に心の種を育てたいと、言ってくれた女の子。
――でも、自分の心は…………。
カルテは満面の笑みを浮かべるフレンを横目に、そっと自分の胸元に手をやった。
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その日の午後は、春風が優しく村を吹き抜け、心地のいい日だ。
カルテは洗濯物を干す手を止め、空を仰いだ。
見上げた空は青く澄み渡り、小鳥が可愛らしい鳴き声を上げていた。
日差しは柔らかく、大地を温かく照らしている。
道端に咲く小さな花は、朝に降った雨によって濡れており、花びらが輝いていた。
――村はずれにある、一軒の小さな木製の家。周りには草原が広がっている。
それが、今カルテとフレンが住んでいる家だ。
機械をこよなく愛した博士が、実験を行いやすい場所にと、わざわざ村はずれに建てたものだ。
カルテは止まっていた作業を再び始めた。
フレンと同居することになってから、家事は分担になり(フレンが提案した)今日はカルテが洗濯をする日だった。
フレンは家の掃除を行っている。
さっきから、どたばたと忙しい音が家の中から聞こえてくるのは、フレンが懸命に掃除を行っているからなのだろう。
果たして綺麗になっているのかは別として。
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