002: エレーミア・ルヴィニ

002-2: incubus × exorcist(祓魔師)

(毎晩のように人の多い繁華街へと出向いている以上、悪目立ちする虹彩の色と、食事に手をつけないという淫魔にありがちな特徴を見抜かれ、祓魔師に狙われる事態に陥るのは承知の上。それでも撒ける自信はあったのだが、入り組んだ路地を足早に駆けても未だ追い縋ってくる気配がいい加減に鬱陶しく、このままではせっかく気に入って利用している宿泊施設にまで着いてこられそうで、聞こえよがしに大きく舌打ちし)
おい、しつこいぞ祓魔師! ……何なんだ。こっちは最近まともに食っていないというのに、何故こうもしつこく追われねばならん……!?
(重なる跫音の合間に堪らずぶつくさ言いながら、複雑に張り巡らされた薄暗い細道を迷いなく進んでいく。明かりも人通りもほとんどない裏通りである以上は夜目の利くこちらが有利なはず──何度目になるか角を折れてすぐ、外付けの非常階段を備えた手近な雑居ビルを視界に捉えるなり人間より優れた身体能力を生かし、助走代わりの余勢を駆って手すりと壁面とを足場代わりにぽんぽんと、多少の段差を乗り越える程度の気軽さですんなり非常階段の上階踊場まで飛び上がる。このまま屋上に出て高層建築伝いに逃げ果せるつもりで、だがその前に執拗な追跡者の顔を拝んでおこうと柵から身を乗り出して見下ろした先。暗がりに捉えた祓魔師らしき人物の姿にはたと動きを止め、ぐ、と眉間に力を込めると眼下の相手に声を掛け)
お前……その顔には覚えがあるぞ。ああ……ああ、そうだ、何年か前にも会ったことがあるだろう? 俺に一撃食らわせたではないか。あんなのは久々だったので俺は不愉快だった。すごくな。
(蘇ってきた苦い記憶に言葉通り不快げな表情を覗かせ、当時の姿と照らし合わせるように相手の頭から爪先まで、赤く鋭い双眸でじろじろと不躾な視線を送るうち、ふと足先の方向を転換して手すりにかける。次の瞬間には軽やかに宙に身を踊らせ、体格のよさに反してそこまでの重みを感じさせない野生種めいたしなやかさで地上に降り立てば、金の巻き毛を背中に払い、傲岸に顎を反らして殺気立った眼を目前の相手に向け)
帰るつもりだったが気が変わった。せっかくの機会だ、あの時のお返しをくれてやる。理由は知らんがお前も俺を狙っているのだろ、このチャンスをせいぜい喜べよ祓魔師。

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