君に、満面の笑みを
今日という日は、なんて幸せなんだろう。心臓がこの躰の中で動いている。鼓動を感じる。心臓があたしの躰で動いたのはどのくらいだったのだろうか。それは分からないけれど、すごく嬉しかった。もうあたしを縛るものは何もなくて、出来るならこの後の未来を生きていたかったけれど、でも自由でいれた。数刻にも満たない時間でも、自由なあたしでいれたことを幸せだと感じた。
そうして、いつの間にか心に芽生えていた願いも、叶った。
心臓を取り返せなくても、自由を手に入れられなくても。最期に逢えるなら、それで良いと思っていた。そう思える相手が、まさかここに来てくれるなんて。どうしてか分からない。気紛れかもしれない。それでも嬉しかった。あたしだと分かっていたと、そう云ってくれたから。あたしと分かって来てくれたのだから。
共にいることは出来ないけれど、殺生丸の記憶の中に、あたしがいるのならそれで十分なのだ。

普通の人なら、本当に些細なことかもしれない。

自由に生きるということ。
最期に逢いたい人と逢うこと。

それは、あたしにとっては本当に大切な願い。欲張って、叶いもしない願いを二つも持ってしまった、と思っていた。でも叶った。叶えてくれた。目の前であたしを見てくれている、あたしが憧れて、焦がれてやまない殺生丸が、叶えてくれた。

本当なら、この迫り来る死から逃れて、これからを生きたい。出来るなら、殺生丸を見続けたい。
でもそれはあたしには大きすぎるから。そんな未来は、あたしが思い描くのは不釣り合いだと思うから。
だから、あたしが願い続けたことを叶えてくれただけで、本当に十分。

貴様じゃなくて、お前、って云ってくれてありがとう。
奈落とあたしの匂いを区別してくれてありがとう。
一人で、あたしのところに来てくれてありがとう。
願いを叶えてくれてありがとう。

もう喋ることも、出来そうにないから。

だから、




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