ATMで金をおろしてくる、と駅前のコンビニへ走った臨也を見送りながら、タバコを吸えず手持ちぶさたになった俺はポケットから携帯を取り出す。 特に携帯で何かをする習慣はないので、臨也と入れ替わってから初めて携帯を開く事になる。 待ち受け画面に表示された、着信ありの文字に慌てて履歴を探ると、昨日から今日にかけて、トムさんから何度も電話がきていたようだ。 俺はすぐに折り返した。 「あ、トムさん。すんません、今気付きました」 『あー…静雄…か?』 「…まだ戻れてないっす」 ちらりとコンビニに目をやると、金をおろし終わった臨也が弁当の棚で首をかしげて悩んでいた。昼時のコンビニはかなりにぎわっていたが、俺の高身長のおかげで臨也がどこに居るかはわかる。 あ、バカ、そっちじゃなくてサラダのついてねえやつにしろ。 のんきに遠くから弁当選びに参加している俺と対照的に、トムさんは『そうか』と低い声で言った。 『今、どこにいる?』 「渋谷っすね。あ、でももう出るっぽいです」 『あー…静雄、戻るまで絶対、池袋には帰ってくるなよ』 「…あれですか、女が臨也を」 『いや、池袋全体だ。皆が血眼でお前らを―…』 「何してるの?」 コンビニのビニール袋を下げた臨也がトムさんの言葉を遮る。 あ、やべえ。そういや電話するなって言われてたんだった。 「すんません、ありがとうございました」 俺は慌てて携帯を耳から離し、電源ボタンを押す。 一連の動作を睨み付けるように見ていた臨也は、俺の手から携帯をひったくった。 「電話、しないでって言ったよね」 「悪い」 「わりーじゃないよ、ほんと…俺たちが一緒に逃げてるのなんか、とっくにばれてる。俺の匿名携帯と違って、シズちゃんの携帯なんてとっくに特定されてるんだろうから、電源だっていれてほしくないのに」 臨也は不機嫌そうに顔を歪めて、先ほど俺が会話を終了するためにプッシュした電源ボタンを長押しする。 俺は臨也の言った「特定」という言葉が妙に気に掛かって、臨也に「特定って何がやべえんだ」と聞いた。 「…特定の携帯の会話を聞けるシステムが…あるんだけど、シズちゃん、まさか」 臨也の顔がさーっと見るからに青くなる。俺の答えを待たず、臨也の軽い身体の俺を米俵にするように担いで渋谷駅の階段を駈け上った。 「場所、どこまで言ったの!」 「渋谷、って…!でも離れるとも言った!」 「っ、クソ…もう東京から離れた方がいいか…」 券売機へダッシュした臨也は、おろしたての万札を突っ込んで切符を買った。かなりの釣りを財布に突っ込んでいたのでさほど遠くへはいかないようだが、先ほどの口振りだと乗り換えるだけかもしれない。 俺は臨也に連れられるままに、電車に乗り込んだ。はあはあ、と肩で息をする俺たちを乗客達が不審そうな目で見る。 「…っ、どこに行くんだ」 「…とりあえず、横浜。最悪、そこから新幹線乗るかもだけど」 臨也はいつになく焦った表情で携帯を操作しだした。 続き |