「…ん」


目を覚ますと、ゆったりとしたイスでグースカ寝ている俺…の姿のシズちゃんが一番に視界に入った。寝覚めは最悪。こきこきと首をならしながら携帯をスライドさせて待ち受け画面の時計をみると午後八時過ぎの表示。かなりの時間、俺は寝てしまっていたらしい。


「シズちゃん、起きて」

「…んあー」

「ちょっと…しっかりしてよ」


そうだった、シズちゃんは寝起きが悪いことがつい一日前に判明したんだった。一定のリズムでシズちゃんを足蹴しながら携帯を操作する。
案の定、波江からの所在を問うメールが何通が届いていた。仕事に関わるものだけに返信し、波江にも仕事のメールをする。「大丈夫だ」とも一応書いたが、どうせ信じてはくれないだろう。ため息をつきながら携帯を閉じると同時にシズちゃんが完璧に覚醒したのか、俺の足を掴む。


「痛え」

「あ、おはよう」

「何蹴ってんだよ」

「シズちゃんが起きないから。早くここ出るよ」


俺はベッドから飛び降りて、乱れたバーテン服を整える。この格好もいい加減着替えないと目立つな。シズちゃんは頭をぼりぼりと掻きながら「ここに泊まるんじゃねぇのか」と言った。


「冗談、お風呂ないじゃん、ここじゃ。俺銭湯も嫌いなんだよね。あくまでここは休憩所」

「…手前さあ、なんか無駄に風呂にこだわるよなぁ」

「無駄は余計だよ。ほら、早く出ないと足が着く」


あくびをしながら伸びをするシズちゃんを引きずってネットカフェを出る。全く、自分が命を狙われてるというのにのんきなもんだよねー。まあ俺の身体だけど。


受付を通り過ぎて、外の空気を吸う。辺りはもう暗くなっていて、仕事帰りに飲み屋をはしごするサラリーマンが多く見られた。人の波をシズちゃんを引きずりながら擦り抜ける。
木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中ってね。
あえて繁華街を選んだのはそういう理由だったのだが、優秀な波江の事だ、一ヶ所に留まるのは危険極まりない。
ネオンの光る街を歩き、一番はじめに目についたそこに入ろうとしたら、案の定シズちゃんが足を踏ん張って止めた。


「…なに」

「…まさか、ここに入るとか言わねぇよな」


「入るよ」

「…嘘だろ」

「マジ。ここならビジネスホテルとかより足が着きにくいでしょ」


そう、着いた先はラブホテルだった。
やたらと派手なネオンが眩しかったのか、それとも嫌悪感からなのか。シズちゃんがおもいきり顔をしかめた。


「つか、男同士でこんなとこ入れねえだろ」

「入れるよ、俺の容姿なら」

「なんで知ってんだよ」

「入ったことあるもん」

「男同士でか」

「うん」

「……嘘だろ」

「本当。ほら早く入ろうよ」


ごてごてと飾り付けられた受付の扉を開く。シズちゃんはもう何も言わなくなったので、俺が適当に部屋を決め、シズちゃんを引きずりながらエレベーターに乗り込んだ。












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