あの後全力疾走で駅に向かい、臨也に渡された切符で池袋を離れ、しばらく電車に揺られた後都内のとある駅で降りた。

昼時の繁華街をしばらく歩き、二階建の建物にたどり着くと入り口で臨也が俺に「受付に顔見せて」と言った。俺が訝りながら顔を出すと、受付の野暮ったいメガネをかけた男はちらりと俺を見ただけで頭を下げ、何の手続きもなく受付を通り抜けられた。
なんだこのシステムは。そう臨也に問おうとしたが臨也はすたすたと階段を上っていったため、慌てて臨也の後を追った。

ここはいわゆるネットカフェ。
その一室に男二人。バカだろう。俺は二日ぶりに襲った腹痛に頭を悩ませながら部屋に身体をねじ込ませた。
ネットカフェになど来たことがないから基準が分からないが、恐らくこの部屋はかなり広いほうなのだろう。デスクトップのパソコンと黒いゆったりとしたイス、大きなベッドが一つ入っているにもかかわらず、まだフリースペースもある。ベッドなんてネットカフェにあるのか。

呆然としている俺を横目で見て、臨也がベッドに腰掛けて毛布にくるまりながら道中で買った昼飯代わりのコンビニのおにぎりを頬張る。俺も臨也に倣って、椅子に腰掛けてコンビニのビニール袋に手を伸ばした。

ツナマヨとおかかのおにぎりを完食し(俺もツナマヨ食いたかったのに問答無用でかじりつきやがった)、緑茶をぐびぐびと飲むと臨也はようやく落ち着いたのか、大きく深呼吸をした。


「…こんな状況で仕方ないから一緒に行動してるだけで、俺まだ怒ってるんだから勘違いしないでよね」

「…何を怒ってんだよ、手前は」


問い掛けてみるものの完璧に拗ねている臨也は俺の問いに答えることなくそっぽを向く。


「知らない」

「…あー、悪かったよ」

「理由もわかってないのに謝られると余計ムカつく」

「んだよ、じゃあどうしろっつーんだよ!」

「シズちゃんうっさい。もういいよ。俺色々と疲れたからちょっと寝るね、オヤスミ」


臨也がこてんと横になり、怒りのぶつけ場所を失った俺は、臨也の怒っている理由を思い出そうと普段使わない頭を回転させる事にした。


あー…確か、このノミ蟲がどっか行ったのは俺が狩沢のクソみたいな案をやってみようと臨也に提案した後だった…よ、な。


その辺りの会話を必死で思い出そうとはしてみるものの。


…ああダメだ。臨也が「バッカじゃないの」っつった事しか思い出せねぇ。
あー腹立ってきた。


俺だって、んな事したくねぇよ。
ただ戻るためにそれが必要なら仕方ねぇだろうが。


俺はすうすうと寝息を立てはじめた臨也の広い額を軽くこづいた。









続き


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