案の定というか何というか。
勢いに任せて飛び出して来たのは良いものの、その後行くあてもなく(さすがに俺の知り合いの所にシズちゃんの身体で行くわけにもいかない)、俺は久々に金を払ってネットカフェで一晩を過ごした。

俺の名義なら年間で借りてるのに。

俺が「折原臨也です」と言っても信じて貰えるはずもなく、朝日が昇る頃にそこを出た。
24時間開いているファーストフード店で朝食を済ませ、特に目的もなく街をぶらぶら歩く。


だんだんと歩行者の数も増えた午前7時、俺は思わぬ人間に話し掛けられた。


「あれ、静雄さんじゃないですか」

竜ヶ峰帝人と園原杏里。俺は当然面識もありそれぞれの持つ秘密まで把握していたのだが、シズちゃんがこの二人と気軽に声をかけられるまでの交流があったとは知らなかった。


「お久しぶりです」


礼儀正しくお辞儀をする園原杏里、頬を少しだけ染めてどこか挙動不審な竜ヶ峰帝人。
それにしてもこの二人、一緒に登校する程にまでの関係だったのか。思わず目を細める。

やあ、久しぶりだね。君と直接会うのはあの公園以来かな?しかし帝人君とこんなに仲良くなってるとは思わなかったよー…

喉まで出かかったその言葉を飲み込む。ここで正体…というかこれまでの経緯をバラせば、帝人君はともかく、園原杏里とはただではすまないはずだ。
俺は仕方なくシズちゃんになりきって、シラをきり通す事にした。


「あー…」

「あの、静雄さんがこんな早くに池袋に居るなんて珍しいですね!お仕事ですか?」

「まあ、そんなとこ…だ」


帝人君は少しだけ違和感を持ったのだろう、苦笑いしながら濁った返事をして、「ああそういえば」と言った。


「最近…その…仲良いんですね」


誰と、なんて聞かなくてもわかっている。
彼はダラーズの一員であり、創始者の1人だ。ダラーズに書き込まれた俺とシズちゃんの噂も当然耳に、目に入っているだろう。

でもよかったね。俺で。

シズちゃん相手にそれを言ったならきっと殴られていただろう。
まあ俺にとっても今その言葉は禁句なんだけどね。ぴくりと血管が浮くのがわかる。シズちゃんの身体ってすごい。
血管に気付いたのか。杏里が少し慌てた様子で「竜ヶ峰君」と呼び掛けた。


「…そろそろ」

「あっ、本当だ!遅刻しちゃうね。じゃあ静雄さん、失礼します」

「失礼します」


ぺこりと腰を折って去っていく2人に手を振る。
2人が着用していたのは、名前は変わっていれど懐かしの母校の制服で、俺はぼんやりと2人の後ろ姿を見つめていた。

いいな、高校生。戻れるものなら戻りたい。…ただ、俺の青春時代はシズちゃんのせいでメチャクチャだったけど。

…シズちゃん。またシズちゃんか。まあこんな状態なら仕方ないかな。

ふう、と大きなため息をつくと同時に、俺の携帯が着信を知らせた。










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