「…悪いな、静雄も臨也も…まあ、あいつらも悪い奴らじゃないんだ」


そう言ったドタチンをにらみつける。…まあドタチンが悪い訳じゃないけど。

狩沢の爆弾発言の後、俺とシズちゃんは仲良くハンバーガーを潰して、無理矢理ワゴンを止まらせて降りたのだ。うん、気分は最悪。

謝り続けるドタチンに別れを告げて歩きだす。ちょうどワゴンを止まらせた所はシズちゃんの家の近くだったので、そのままシズちゃんの家へと直行することにする。



「…なあ、」


沈黙が続いた道中で、信号待ちをしているとシズちゃんが話し掛けてくる。そういえばしきりに鼻の頭を掻いたり、頭を掻き毟ったりしていたからきっとずっと話したかったのだろう。俺はいつまでも青にならない信号にイライラしつつ、「なに」と言って続きを促した。
シズちゃんはしばらく、あー、だとか、うー、だとか唸って言いにくそうにしていたけれど、信号も変わり、あ行を制覇した辺りでようやく話し出した。


「本当に…その…すれば戻れるのか」

「ハァ!?」


頬をほんのり赤らめて言うシズちゃんは気持ち悪い。いや、俺の顔だからビジュアル面では全然大丈夫なんだけど、中にシズちゃんが居てシズちゃんが赤面してると思うと気持ち悪い事この上ない。
しかもその発言。ちょっとどもりつつ話している辺りが童貞臭すぎる。チューすら言葉にできない辺りが童貞臭すぎる。


「バッカじゃないの!?そんなのでキスできる訳無いじゃん!シズちゃんバカじゃないの!」

「うっせえな!じゃあどうしろって言うんだよ!このまま戻れなくてもいいのかよ!」

「何なの!じゃあキスしろっていうの?!そんなのやだよ!」

「これからの事考えたら仕方ねえだろ!…っクソ、手前らジロジロ見てんじゃねえよ!」


ギャーギャーと大声で怒鳴りあっていると、当然通行人の何事か、という注目も集まる。そんな通行人の視線はシズちゃんの一喝で霧散する。俺ははあはあと肩で息をしてシズちゃんをにらみつけた。






もう限界だと思う。
元々こいつとは性が合わなかった。


高校に入学して、新羅から平和島静雄の事を聞いた。前々から名前だけは知っていたが、実際に無双のチカラを目の前で見て、どうしようもなく欲しくなった。

ー…こんな人間もいるんだ!

すぐに家に帰り、平和島静雄の事を調べた。彼はそのチカラの為に人との付き合いがあまりうまくいっていない事も知った。

いいじゃん?ひとり。俺もひとりだし。

俺にとっては平和島静雄の力は恐怖ではない。俺なら最大限に有効活用してあげられる。奴がおそらく欲しかったであろう、「肯定」だってあげられる。
欲求を抑えられなくなった俺は無理を言って新羅に紹介してもらったが、奴は俺を拒否した。俺は多少気が合わなくても演技していればどうにかなると思っていたが、奴はその演技を見抜いた。見抜いた上で、「そんなヘタクソな笑顔見せんな」と言った。


俺は奴が大嫌いになった。


認めたくはないけど、きっと奴は誰よりも俺に似ていた。いや、似ている。
性格とか顔とかじゃなく、奴も俺も、ひとりだという所。
だから俺は奴を欲しがった。やっとふたりになれる。そう思っていたのに。

俺がアイツを嫌いなように、奴も俺の事が嫌いだった。
奴とふたりになるくらいなら、ひとりでいるほうがずっとずっとマシ。








「…もう知らない」

「あぁ?…おい待てよノミ蟲!」



俺は大嫌いな金髪を風になびかせて走りだした。
シズちゃんが手を伸ばしたが、彼の腕より短い俺のそれではバーテン服を掠めた程度で、俺を引き止めるには至らず、俺は暮れはじめたオレンジ色の池袋の街を走り抜けた。











続き


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