「…静雄、お前…大丈夫か…」


むしろドタチンが大丈夫?

そう問い掛けたくなるほどに顔を青白くさせるドタチンを横目で見つつ、作られた直後に地面へと滑り落とされた哀れなハンバーガーを拾ってやる。
ドタチンもしばらくすると我に返ったのか、しゃがみこんで一緒になって拾う。
ドタチンが耳打ちできる距離になったところで「ちょっと話したい事があるんだけど」とささやくと、ドタチンはなにやら神妙な面持ちで、ワゴンへと来るように言った。
まだ昼食を取っていない旨を伝えると、「わかった、買ってくる」とレジに向かうドタチンにお昼を任せ、未だ腑抜けなシズちゃんに話し掛ける。


「シズちゃん、行くよ?」

「…あー」


…なんか介護してる気分になってきた。
コーヒーを握り締めて動かないシズちゃんを、米俵にするように担ぎあげてファーストフード店を出る。
その様子を、パシャパシャ、ピロリンと携帯カメラで激写されつつ。







「もう!ドタチン、遅………えっ」

「遅いっすよ、門田さー……えっ」


やっほうといいながら笑顔で右手で手を振り、左手で俺の身体のシズちゃんを担ぐ俺に、ワゴンの後部座席に座って本を読んでいた狩沢と遊馬崎が絶句し、パクパクと口を開けたり閉じたりしながらこちらに人差し指を突き付ける。失礼な奴だと思いながらもファーストフード店のマークの入った袋を下げたドタチンに早く乗れ、と促され、いそいそとワゴンに乗り込む。
よいしょとシートに座り、俺の身体のシズちゃんをその横に座らせる。ワゴンが発進してしばらくすると、ようやく狩沢が口を開いた。


「ここ…萌えるとこ?」


…んな訳ないじゃん。
俺は笑顔でドタチンに買ってもらったハンバーガーを握りつぶす。
ブシャ、とトマトをマンションの三階くらいから落としたような音を立てて一口サイズにまで圧縮されたハンバーガーに一番驚いたのは、多分、俺だ。

ドタチンがそんな俺を訝るように見ながら、絞りだすように聞いた。


「……もしかして…臨也…なのか」


…あーもう、やっぱりドタチン超好き。ドタチンならわかってくれると思ってた。
俺は抱きつきたい衝動をすごくすごく抑えながら(シズちゃんの腕力ならドタチンの肋骨くらいぱきんと折れそう)、激しく頷いた。


「さすがドタチン!…まあ、色々あって…まあ何が原因かは全くわかんないんだけどね。…ほんっとに困りものなんだけど、っていうかもう死にたい気分……とにかく、認めたくないんだけど…うん、俺とシズちゃんの中身が入れ替わっちゃったんだよね」


軽く言ったつもりだが、痛い沈黙が車内を支配する。
まあ、当然の反応だろう。新羅にセルティ、波江にトムさんともう四人に状況を明らかにしたが、四人とも最初の反応は沈黙だった。

しかし、もはや神の領域の直感によってビンゴ、ど真ん中ストライクしたドタチンは置いておいて、こいつらー…狩沢と遊馬崎はどうやら普通じゃないらしい。沈黙とは言っても、ボーゼンとする、という意味のそれでなく、何かを堪えるような沈黙だったのだ。

そして、沈黙は嵐ー…狩沢による叫びによって吹き飛んだ。


「萌える!!!!」









続き



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