田中さんによる必死の取り立ての後、変態に抱きつかれた事によって茫然自失しているシズちゃんを引きずって、目についたファーストフード店に転がり込んだ。
店員に奇特な目で見られつつ、とりあえずコーヒーを田中さんに頼んで席に着く。他の客がこちらを見ながら「平和島静雄と折原臨也だ」「噂は本当だったんだ」とこそこそ話すのを睨み付けて黙らせながら。
シズちゃんは席についても口を開けてぼーっとどこかを見つめていたが、ようやく一言、「ああ、」と発した。


「そうか、今俺はあれか、ノミ蟲の身体なのか」


ぽつりと呟いたシズちゃん…もとい俺の顔ははっきり言って、大丈夫か、と肩を揺さ振りたくなるくらい死にそうな顔をしていた。俺は怪訝な顔でシズちゃんに問い掛ける。


「何…どしたの、いまさら」


シズちゃんはしばらく考えながら、あー、とかああ、とか意味の無い音をもらしながら、「いや…あの…あいつが…ほら、可愛い…って言ってただろ。今まであいつに、興味ない、って言われて…きたからな」とどもりつつ話した。


「ああ…そう」


もったいぶって言うもんだから何かと思えばそんな事かよ、と少しだけ落胆しつつシズちゃんに、田中さんが運んできたコーヒーを差し出した。シズちゃんはそれを両手で包むように持ち、「コーヒーって黒いな」とか意味のわからない事を言い出して、ホットのそれをずぞぞ、と飲んだ。
田中さんは俺の身体のシズちゃんを何か変なものを見るような目で観察して、小さくため息をはいて席を立った。


「あー…、俺、仕事の続き行くわ。二人とも今日はありがとうな」

「あっ、はーい」


コーヒーのお金を払おうと、ポケットから財布を取り出そうとすると田中さんは、「あ、お礼代わり」と言って止めた。どうも、とお礼を言って田中さんの後ろ姿を見送る。シズちゃんは何も言わずひたすらコーヒーを見つめていた。






「ねえ、ねえシズちゃん。お腹すかない?」


気まずいひとときをしばらく過ごす。田中さんに奢ってもらったコーヒーも底をついた辺りで、腹の虫がなった。そういえば結局朝ごはんを食べていない事を思い出し、さらにお腹が減った気がした。


「…あ?」

「だーかーら、お腹。減らない?」

「…ああ…」

「あーうん、適当に買ってくるから、そこに居てて」


そう言ってレジへと向かおうと立ち上がると、そこには見慣れた顔があった。


「あっドタチンー!丁度良いところに!」

「…えっ、静雄…?」



ああそうか。ついついいつものテンションで話しちゃったけど今俺はシズちゃんの身体なんだった。
ドタチンはまるでこの世の終わりを見たような顔をして、手に持っていたハンバーガーの乗ったトレイを落とした。









続き


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