長い風呂だった…

俺は盛大にため息をついて、ベッドに腰掛け、ついついいつもの癖でタバコをくわえかける。
っと、あぶねえ、こんなの臨也に見られたらまたピーピー言われるな。
出したタバコを箱に戻し、なんとなくテレビのチャンネルをつける。平日の夕方なんて子供向け番組やニュースくらいしかやっておらず、目的もなくチャンネルを回す。すると臨也がバスタオルで頭を拭きながらぺたぺたと足音を響かせて歩いてきた。何見てんの?と問い掛けてきた声には怒気は含まれていなかったので、さっきの事はあまり怒っていないらしい。


「いや、別に…何も」

「じゃあご飯食べようよ。そんで早く寝よう」

「んだ、ねみぃのか?」

「別に眠くないけど」


ここで一呼吸置いた臨也は、「まあありえないことだけど」やら「でも今もうすでにありえないけど」やら「あくまで仮説だけど」と長い前置きをして、ため息をつきながら、「一回寝たら元に戻るんじゃないかな」と言った。


「…マジでかよ」

「いや、何、ほら、あるあるだよ、あるある。あるあるネタなの。言っておくけど信憑性はゼロだからね。あるあるっていっても果てしなくないないの中のあるあるだから…というかほんとネタだよね。笑えないけどさ。マンガとかの中だけだと思ってた。…その中でのあるある」


臨也の言葉は長ったらしくてわかりにくかったが、「元に戻れる」という言葉に、真っ暗だったこの先に少しだけ光が射した気がした。臨也が言うとどんな夢物語でも信憑性がグーンと上がるから不思議だ。こうやって色んな奴が騙されてきたんだろうか。
何はともあれ明日という未来に少しの希望を抱きつつ、臨也とコンビニに行って、店員にすごい目でみられながらからあげ弁当を2つ買って、そうそうに食事を済ませてベッドに身体を預けた。後は明日を待つだけと目を閉じようとしたのだが。


「何してんの?」

「は…?いや、早く寝ようっつったのは手前だろが」

「俺はどこで寝るの?」


臨也の言葉に、俺は凍り付いた。

この部屋にソファーなんぞという洒落たものは無い。飯を食うテーブル、テレビ、ベッドを除けば家具と呼べるものはほとんど無かった。


「…床、とか」

「はー、ほんっと信じらんない。だからもてないんだよシズちゃんは。だから童貞なんだよシズちゃんは」

「んだよ、うっせーな!じゃあ一緒に寝ろってのか!?」

「それしかないじゃん!しょうがないの、俺だってやだよ!」


珍しく大声を上げる臨也が無理やりベッドに乗ってきた。くそ、俺の身体ってでかいな。
一枚しかない布団を取り合いしながら、明日には元の身体に戻れていますようにと目を閉じて、とにかく寝ることだけを考えた。










続き


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