「どーしたの?早くしてよ、さむい」

「あ、…いや、あの、お前平気だったのか」

「は?なにが」


くちゅん、と柄にもなく…というかたいそう気持ち悪いくらい可愛らしいくしゃみをして(俺の声+容姿でそれをやられると本当に死にたくなる)、早くしてよ、と促す臨也におされるようにして石けんを泡立てたタオルを俺の広い背中に押しつけた。


「…もっと強く。…あ、だめ強すぎ…うーん、まあそんなもんかな」

「…うぜえええ、黙ってろ」


広い背中にタオルを押しあてて良く見てみると、こんなところにあったのかと自分でも気が付かなかったところに傷があった。ごしごしと力を入れてこするとまた臨也がピーピーと口うるさく注文を付けてきたのでめんどくさくなって適当にシャワーで流した。
その後も臨也の注文は続いたが、なんとか一通り体を洗い終わったのでシャンプーを手に取る。シャンプーを一回プッシュして頭を適当に掻き混ぜてシャワーで泡を流す。シャンプー終わり。俺の役目は果たした、と風呂場から出ようとすると、俺の手をもつ臨也によって手首をがっしりと捕まれた。


「…え、ちょっと待って」

「あ?んだよ」

「いや、まさかとは思うけど…もしかして、シャンプー終了?」

「…おう」

「やだあ、信じらんない!シズちゃん、そんなんじゃ絶対将来ハゲるよ…ほらシャンプー」


そう言うと臨也は掌を出して、シャンプーを求めるようにひらひらと振る。仕方なしにシャンプーをそこにプッシュしてやると、目が見えないのにもかかわらず器用に手に絡めてわしゃわしゃと頭を洗い出した。

一言でいうと、長え。

俺なら十回は洗い終わってる、というくらいの時間が過ぎた辺りで臨也は「はいおわり。洗い流して」と言った。


「なげえよ。お前は女か」

「シズちゃんがテキトーすぎるだけです……くちゅん」


泡を流し終えると、臨也が先ほどと同じような腹の立つくしゃみをしたので、俺は臨也の背中をトンと叩いて、風呂に入るよう促した。


「あー、臨也、手前風呂入ってろ。なんか俺の声でくちゅんくちゅんやられたら精神的にかなり苦痛だ」

「うっさいなあ…でもまあ、風呂には入るよ」


目の見えない臨也がそろそろと風呂に入る。俺は先に上がろうと、脱衣場へのドアを開けた。すると臨也の叫びがタイル張りの風呂場に響く。


「ちょっと待って!」

「な、んだよ…」


いきなり大声を出した臨也に振り向くと、俺のでかい体で小さなバスタブにきゅうくつそうに入っていた。まあいつものことだが、一人暮らしの風呂なんてこんなもんだ。


「上がり湯は?」


臨也の口から発せられた言葉に思わず固まる。


…え、そこに入れと?



背筋を嫌悪感が秒速何メートルかで駆け上がり、俺は死に物狂いで風呂場から脱出した。
小さなバスタブに俺と臨也、オプションは目隠し…死にたいシチュエーションだ。臨也の不満げな声が響いていたが聞こえないふりをした。あいつはなにがしたいんだ。

脱衣場で身体を拭いて、スウェットに袖を通す。当たり前だが俺のスウェットは臨也の身体には大きすぎて、袖やすそがあまってかなり動きにくかった。
臨也用にはいつも着ているスウェットを準備してやって、脱衣場を出る。時刻は午後六時。風呂に入ったのが五時ちょいだったから、かれこれ一時間近くも風呂に入ってた事になる。しかし長い風呂だった。










続き


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