臨也によって目を隠すようにきつく巻き付けられたタオルのせいで、俺の視界は闇に閉ざされた。いや、正確に言うと照明のせいで完全にまっくら、という訳ではないが、ともかく相手と自分の姿が影でその形をぼんやりとつかむ程度にしか見えないのでよしとしよう。 「これでおっけー?何もみえない?」 「ああ」 臨也が「俺の体がシズちゃんになめまわすように見つめられるなんて耐えられない」などと言い出したせいで、俺は今、風呂場で臨也に目隠しをされてプラスチックのイスに座っている。 幸い視界が塞がれているので壁にでかでかと取り付けられた鏡を見ることもなく、俺の無様な姿を目にすることは無かったが…って、そうか、今俺は臨也の身体か。まあ、臨也の身体なら俺自身はなんら恥じる必要はない。まあ、すぐに俺の身体も今の状態になるわけだが、俺と臨也が話し合って出したこの間抜けな方法は、割と理にかなっているというか、お互いの精神的なダメージを最低限に留めたなかなか良い案だったんだなあ、と感心していた。 そんな、自分の無様なさまを見ているはずの臨也は、タオルを石けんで泡立てながら、大げさに感嘆のため息をもらした。 「…ふう………俺、ちょうえろい」 「…ハァ?」 「もうなんか、SMプレイ?みたいな感じでさあ。我ながら欲情するよ」 「…イヤイヤイヤ、てめーの身体だから、てめーの身体だからこれ。落ち着け、これはてめーの身体で、中に入ってるのは俺。オッケー?」 「落ち着くのはシズちゃんじゃん、そんなのわかってますよーだ」 臨也が物騒…というか危ない事を言い出したので、慌てて振り向くがタオルによって阻まれた視界はぼんやりとしか俺の身体の臨也を映すことはなく、頭の両側がっしと捕む臨也の手によって無理やり元の状態に戻される。 臨也が「いくよ、」と一声かけて、泡立てたタオルを俺の背中に押し当てる。少し力を込めただけなのだろうが、『俺の』少しの力はかなり痛かった。 「あああ痛え、力込めすぎ」 「えー。じゃあこんなもん?」 「…あー、そんなもん」 「シズちゃんの身体ってめんどくさーい」 臨也はぶつくさと呟きながら背中、腕、脚など一通り身体を洗い終えて、頭にとりかかった。シャンプーをプッシュし、くしゃくしゃと泡立てながら洗われる髪の毛は、臨也が上手いのか、それとも誰がやってもそうなのかはわからないが美容院でやるのとなんら変わらず、なかなか気持ち良いものだった。 「はい、終了。シズちゃんと同じシャンプーの匂いがする俺とか、そこはかとなく気持ち悪くて吐きそうだけど、とにかく終了。語彙力のないシズちゃんの為に念を押して言ってあげると、この場合のそこはかとなく、っていうのはどうということもない、とか理由もなく、って意味じゃなくて、際限なく、って意味だから。際限なく気持ち悪くて吐きそうって事だから」 そういつもどおりらべらと吐き捨てるように喋りながら、臨也は自らの目を別のタオルで塞ぎ、しばらくして俺は目隠しを取ることを許され、久々に明るい世界が見られたのだが。 前言撤回。これはなかなか良い案なんかじゃねぇ、ぶっちゃけこっち側はあんま意味ねぇだろ… 目の前に映った鏡には、全裸で目隠しをしてプラスチックのイスにどかっと座った俺の身体の臨也と、全裸で目隠しをとって愕然する臨也の身体の俺がたいそう間抜けに映されていた。 続き |