下ネタというか下品な臨也注意








「うわ、せまいしきたない」

開口一番そう言い放った臨也は、ああ、俺の身体しててもやっぱりうぜえもんはうぜえな、と実感させるには充分だった。俺の身体ならたいしてダメージは無いだろうが、すごくすごく殴りたくなった。
だが、握り締めたやけに色の白い拳を見て、殴ったら多分こっちのほうがダメージでかくなりそうだ、と思いギリギリのところで踏みとどまった。いつも臨也がナイフで挑んでくるわけがなんとなくわかった。ただ単にナイフが得意なだけかもしれないが、ナイフが折れても痛くも痒くもないけど骨が折れたら痛いからな。
だから、せめてこれでもかというくらいに眉間に皺をよせてやった。

「んだ、文句あるなら帰れ」

「あのねー、俺だって好きでこんなとこ居るわけじゃないの」

臨也が我が物顔で買ったばかりのソファーに腰掛ける。俺の部屋はどっちかというと殺風景で、ワンルーム風呂キッチン付きのこの部屋には他に家財道具とよべるものも少なく、タンスとベッドとテレビと、小さなテーブルが申し訳程度に置いてあるくらいだった。特に不自由もしてねえし、独り暮らしの男の部屋なんてみんなこんなもんだと思う。臨也みたいな異常者はともかく。


「帰りたいけど、俺は見張りにきたんだし」

「何の見張りだ」

「だって俺の身体、イン、シズちゃんだよ?」

「だからなんだってんだよ」


臨也はふうー、わっかんないかなあ、単細胞シズちゃんは、と大げさにため息をついた後鼻で笑った。駄目だ、殴りてぇ。我慢の限界。
そう思った直後、臨也の腹ー…正確には俺の腹だがー…に、俺の拳がめり込んでいた。いや、めり込むくらいの力を使ったつもりだった、と言うべきなのかもしれない。結果的に言うと臨也はノーダメージで、俺には痛烈なダメージがあった。臨也に「ちょっと、俺の拳なんだけど」と不満げに睨まれたが、それどころじゃない痛みに見舞われてなにか反応を返す余裕は無かった。


10分後。

ようやく拳の痛みもおさまり、思わず、ふう、とため息を漏らすと、それまでおもしろくなさそうにテレビを見ていた臨也が、不意にこちらを向いた。

「んだよ」

「…あのさ、シズちゃん、今日お風呂入るよね。っていうか、俺の身体的には絶対入ってほしい。きたないし」

「特に考えてなかったけど、別に入れって言うなら入ってやるよ」

唐突な風呂の話。

まだ夕方で、俺はメシの話でもするのかと思っていたので拍子抜けしてしまった。臨也は俺の答えに、そうか、うん、となにやら納得したように呟いて、とんでもない事を言いだした。


「じゃあずっと目つぶっててね。俺のハダカ見たら殺すから」


…殺すって、どうするんだろうか。
俺の身体を殺す、=自殺?いやいや、臨也に限ってそれはない。じゃあ臨也の身体の俺を殺す、=自殺か。なんだ、どっちも一緒じゃねぇか。
…じゃなくて。


「ハァ?んなもん無理に決まってんだろ」

「無理じゃない」

「無理だアホ。つかなんでだよ」

「だってシズちゃんのいやらしい目で俺の身体がなめまわすように見つめられるなんて耐えられない」

…俺はテメーの思考が耐えられねぇよ。
、という突っ込みは心の中に留めておいたが、おそらく表情に何割かが溢れていたのだろう、臨也はなんだよ、と言わんばかりにふんぞりかえる。

「身体とか洗うのどーすんだよ」

「俺が洗う」

「ハァ!?一緒に入るとか、それこそ無理だろーが!」

「俺だってやだよ!でも仕方ないじゃん!俺シズちゃんのちんことか触れないし」

ヒステリックに叫ぶ臨也。叫ばれた言葉の中には、なんというか非常に生々しい単語が挟まっていて、俺は勢いを失ってしまう。


「おま、っ…そういう事言うなよ」

「シズちゃんだって俺のちんこ触るのやでしょ?俺もやだし」

「…生々しいしきめえ。別に自分のもんだと思ったら平気なん…いや、やっぱり無理かもしんねえ。今想像したら吐き気もよおした」

「想像って何、俺のハダカ妄想したの、金取るよ」

「アホか!んなことするか!死ね!」


…嘘だ。
した。
思い切り想像した。

臨也が風呂で身体を洗っているのを想像して、でも感覚は俺にあるー…という、なんというか携帯でよく見るエロい漫画の広告にありそうなシチュエーション、を想像した。ああいう類の広告は苦手で、だからこそかもしれないが、憶えてしまっている自分にすこし嫌悪感を抱いた。そしてそれを臨也に置き換えて想像した自分に殺意すら湧いた。

まあそういうわけもあって臨也の言うこともわからないでもないので、臨也と詳しく協議した結果、片方が目隠しをして片方が自分の身体を洗うというなんとも間抜けな方法で風呂に入ることになった。









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