「シズちゃん!」

どたばたと騒々しい音がしたかと思えば、いつも通り真っ黒なファーつきのジャケットに身を包んだ臨也が駆け込んでくる。俺は取り立ての最中で、取り立て先の奴が経営しているラブホでそいつの胸ぐらを掴んだところだった。

「臨也ァ手前、池袋に何しに来たァ…」

ドスンと音がしたのは、客を振り落としたからだろう。トムさんはこめかみを押さえてため息をついている。俺は近くにあった椅子を持ち上げ、奴に照準を合わせ放り投げる。臨也はそれを軽く躱し、俺の懐に入る。やべぇ、やられる。
覚悟した痛みはいつまで経ってもやってこなかった。臨也は全く予想だにしなかった行動をしたからだ。

「シズちゃぁん!」

臨也はあろうことか、甘えた声を出して俺に抱きついた。そんでもって、俺の胸板に鼻先を擦り付けたのだ。俺もトムさんも、取り立て先の奴もみんな声を失い、どきついピンクの部屋…部屋番のかわりにVIPルームと書いてあった。どうやら応接室みたいなものらしい。…いや、そんな事はどうでもよくてだな。とにかくその趣味の悪い部屋は一瞬で静寂に包まれた。

折原臨也。
池袋、新宿、いや東京でこいつの名前を知らないその筋の奴は居ない。一般人でも名前くらいは知っておいて損はないだろう。つまるところ、こいつに関るとロクな事はない。
俺、平和島静雄も池袋ではなかなかの知名度だと思う。全く嬉しかねーし、臨也みたいに悪名ばかりで無いことを祈るが。
そして、俺と臨也は恐ろしいほど仲が悪い。俺はアイツに何度も殺されかけたし、俺も何度もアイツを殺すつもりでポストやら自販機やらを投げまくった。へし折った標識やガードレールはどれくらいだろう。忘れた。
何はともかく、その超有名人の二人が、近付けてはいけないと言われている二人が、今までに無いくらい接近してるわけだ。俺は冷静に考えることができず、ただ固まっていた。

「…悪いけどさぁ…俺とシズちゃんの2人にしてくれる?」

臨也は俺の胸板に顔を埋めたまま、振り返らずに言った。トムさんは頭をぼりぼり掻いたあと、ため息を絞りだした。

「あー…静雄、今日は帰っていいぞ」
「…いや、トムさん。今日まだ仕事あるじゃないっスか」

トムさんは無言で片手を上げて、呆然としている取り立て先の奴を連れて出ていく。視界から完全にトムさんが消えたとたん、視界が揺れた。

「臨、也っ」

臨也は力任せに俺を押し倒した。俺は後頭部を床で強く打った。痛ぇ。臨也は俺の上に馬乗りになる。何だこの態勢。

「シズちゃん、動かないでね」
「…あ゛?」

臨也はバーテン服のボタンを外していく。さすがに慌てた俺は腹筋を使って起き上がろうとした。臨也は心底辛そうな顔をして俺の胸を押してそれを食い止めようとする。

「だめ、」
「…手前、何する気だ…?」
「シズちゃんはじっとしてて」

臨也はボタンの外し終えたバーテン服と蝶ネクタイを放り投げ、シャツのボタンを外す。

「…?」

臨也が何がしたいのかわかんねえ。上半身だけ起き上がった俺は臨也にされるがままになっていた。そしてシャツのボタンを外し終えた臨也はあろうことか、俺の下半身に手を伸ばした。

「臨也っ!?」
「動かないで…」

チャックを下ろし、俺のペニスを取り出す。臨也は躊躇わずにそれを口に含んだ。

「お、おい!」
「…ふ、んっ…」

臨也の頭をつかんで引き離そうとするが、臨也は抵抗し、軽く歯をたてた。

「っ痛ぇ!」
「抵抗しないで」
「…手前、どうする気だ…」

急所を握られている俺は抵抗を諦め、臨也に理由を聞く。臨也は俺のペニスを舐めたり、吸ったり、扱いたりして質問には応えない。ああどぎついピンクが目に痛い。なんだって今日に限ってラブホに居るんだ、俺は。
そんな事を考えていると熱が集まって、限界を感じた。

「…臨也、もう離せ」

臨也は離す気など無いというふうにむしゃぶり続ける。結局俺は奴の口に吐精してしまった。

「んぐ、う…ん」

まさか飲むとは思わなかった。吐き出すと思っていた俺の精子が臨也の喉を通っている。信じられない光景だ。息をするのも忘れて見入ってしまった。飲み終えると臨也はようやく俺の下半身から顔を上げた。上げた顔は少し上気して、目は潤んでいた。
少し口のまわりに付いた白濁と、僅かに染まった肌と、濡れたような黒髪と、ルビーの瞳。そのコントラストが何とも言えず色っぽくて。凄く色っぽくて。俺は臨也から目を逸らした。

「シズちゃん、いっぱい出たね」

臨也は俺が目を逸らしたことが気に障ったのか、俺の首に手を回して顔を近付ける。誘惑以外のなにものでもない。臨也が何をしたいかはもう充分わかったが、なぜこんなことをしたのかは全くわからなかった。

「るせぇ、手前、どういうつもりだ」

目を逸らすのを諦めて視線を合わせると、泣きそうな臨也の顔があった。意味わかんねぇ。臨也は顔を顰めたあと、俺の耳元で囁いた。

「ね、シズちゃん…シよ?」

臨也は俺の答えも聞かず立ち上がり、これまたどぎついピンク色のでかいベッドに腰掛けて自分の服を脱ぎはじめる。ジャケットを放り投げ、シャツを脱ぐと白い肌が露になった。臨也は自分で自分の乳首を弄る。目線は俺に合わせたままだ。

「シズちゃん…早く」

こんな臨也、見たことねぇ。臨也が自慰まがいの事をして、俺を誘っている。俺はおもわず立ち上がり、臨也に手が伸びた。

「シズちゃんの好きにして、いいよ」








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