※暴力あり




地獄、としか言いようがない。

入学したての一年坊にも関わらず、中学の時につかんだ情報を使って教師を手中に納め、校内でじわじわと幅を利かせはじめた事が気に食わなかったのだろう、先輩方に嫌われていることは知っていた。呼び出しを食らった時も、ああリンチされるのかとぼんやり考えていただけだった。
靴箱に入っていた呼び出し状(随分とまた、古風な事をするものだと思った)には、もしも来なかったらお前の代わりが妹になるだけだ、という一文が添えられていた。いくら憎い奴の妹といえどもまだ新しいランドセルを背負う女の子を二人もボコる度胸が先輩方にあるとは到底思えなかったが、まがりなりにもアングラに身を置いている臨也は、ロリコンだけで済めばいいものだが世間には奇特な趣味をお持ちの方もたくさんいる事をよくよく知っていた。人質をとられるにせよとられなかったにせよ臨也は呼び出しに応じるつもりだったので、あまり意味は為さないのだが。そう、臨也を突き動かしたのは、何よりも、こんな事をする人間を見てみたいという、ただそれだけだった。そうして、臨也はポケットの中で護身用にとナイフを弄りながらここにやってきたのだ。
しかし、例え頭脳明晰な臨也であろうと、まさか自分がこんな事になるなんて予想ができたはずが無かった。

「おら、なんとか言えよ折原」

…死ね。
とでも言ってやりたいところだったが、生憎臨也の口には名前も、顔すら知らない男の陰茎が入っていて、それどころではなかった。
「おい、お前の口のが邪魔で喋れねえとよ。いったん抜いてやれ」
「ええー…まあ、声聞きたいしなあ」

ずるり、と喉の奥の方まで入っていたソレが抜かれると同時に、臨也は激しく咳き込んだ。いやな汗で額に張りつく前髪をどうにかしたいと思ってみても、両手の自由なんてものは存在していない。

「げほ、ごほ、は、あ、はあ」
「おら、何か言えよ。どんな気分だよ」

むき出しの臨也の肩口を、堅いローファーがぐりぐりと押す。後ろから羽交い締めにしている奴のおかげで後ろに倒れる事は無かったが、臨也はどちらかというと後ろに倒れたい気分だった。ぎろり、と睨んでもみたが、自分を取り囲む男のあまりの数の多さに怯えは隠しきれない。二十人は軽く越えているだろうその数は、静雄ならともかく、身体能力が優れているとはいえどもただの『人間』の臨也にはどうしようもなかった。数人を刺した辺りでみぞおちを殴られ、ナイフを奪われ、ボコボコに殴られた。泥の付いた学ランを剥ぎとられ、インナーを破り捨てられて上半身には何も纏っていない状態だ。
そんな絶望的な自分をいったん忘れ、せめて言葉でだけでもと強がってみるものの、辺りの男たちは無様だと嘲り笑うだけだった。

「…サイアク。俺にこんなことして、ただで済むと思ってんの?」
「うわ、すげえ強気なんですけど。生意気」
「はは、超うけるんだけど」
「こういうプライド高そうな奴って犯し甲斐あるよな」
「つうかこいつも、こうなるの分かってて来たんじゃねえの?」
「バカだろ!つうか淫乱?」

ぎゃはは。下品に笑う声が谺するが、臨也にはある単語だけがクリアーに耳について離れなかった。
―犯し甲斐があるよな。

グラウンドに着いて早々、四方八方からの攻撃に音を上げた臨也は地面に体を委ねた。後ろから羽交い締めにされ、倉庫の裏に引きずり込まれる。無理矢理に肌を露出させられた臨也を迎えたのは、一つの陰茎だった。ソレを突き出した男の顔は全く知らなかったが、男は俺のことを知っているらしかった。やたらと馴れ馴れしく「臨也」と名前を呼ぶ。
「咥えろよ臨也あ。歯とか立てたら妹を殺しちゃうかもよ」
馬鹿にしているのかと思った。冗談、と鼻で笑って取り合わなかったが、しばらくして取り囲んでいた男の一人が見せてきた携帯の画面に、俺は心中で舌打ちをした。マイルとクルリが、仲良く遊んでいる様子の映された画像。小さな画面の中で双子が来ている服はまちがいなく、今朝朝食を食べていた時のもので。
「お兄ちゃんは言う事きかないと駄目だよなあ?」
腐れ外道が。喉の奥でそう罵りながら、眼前に突き出されたそれをそこに押し込んだ。


つい数分前の事なのに、もう随分と経った風に思える。そんな事があったから、自分がただ一方的に、死なない程度の暴力を浴びせ続けらて済むとは思っていなかったが、まさか犯すという単語が、こうも簡単に飛び出してくるとは思わなかった。上半身は既に外気に触れているが、下半身には一切触られていない。臨也は男同士のセックスの経験は無いが、どこを使うか位の知識はあった。しかし、なぜ自分がそんな対象に。沸き上がる疑問に戸惑いを隠すことなどできない。
―嫌いな奴のケツの穴に突っ込むなんて、常人の考える事じゃないだろ…!?
はたして、嫌いな奴にフェラをさせるような人間に常人の考えというものが通用するのかは定かでなかったが、この時の臨也はいろいろと目一杯の状態だった。

「…なに、折原ビビってるじゃん」
「ふざけないで。離してよ、ッ」
「あ、おいちゃんと押さえとけよ」
「問題ねえよ。こんな細っこい腕で何とかできるわけねえ」

身を捩って暴れてみるものの、俺を拘束し続ける役割なのだろう、ガタイのいいそいつは全く動かなかった。

「離してよ、離せ!」
「あーあー、キャンキャンキャンキャンうるせえなあこいつは。誰かまた口にぶちこんでやれよ」
「じゃあ俺やるわ、な、いいだろ」

いや、俺が。じゃあケツは俺が。
挙手制でもないだろうに、ハイハイと手を上げる男達を信じられないような目付きで見る臨也の前に、リーダー格であろう男が立ちふさがった。確か名前は、なんとか田、とかいったはずだ。

「バーカ、てめえらこういうのはなあ、キャンキャン言わせといた方がいいんだよ。やめてやめて言ってられんのも始めのうちだぜ?だんだんヨガってくんだよ、男なんてそういう生き物だんだから」

自慢げに、両手を広げてそう言ったかと思えば臨也に向き合って、いわゆるヤンキー座りで座し、なあ、と臨也に話し掛けながら爬虫類のように長い舌を臨也の白い頬に滑らせた。

「…きもちわる、」
「良くなんだよ、すぐに」
「ならない。離して」
「なるんだよ。つうか、してやるよ折原ァ…」
「なに、ちょっ、や…!」

耳に、男の舌が侵入してくる。ぬめつく感覚とざらつくそれだけでなく、じゅる、じゅるといういやな音が耳からダイレクトに伝わり、臨也はたまらず目を伏せた。

「やだ、…きもち、わるい…っ」
「…ああ?気持ちいい、の間違いなんじゃなくて?」
「う、きもちわるいんだ、よ、…離せ変態っしね、しね!」
「…相変わらずの女王サマ気取りだな。おい誰か、そろそろ乳首触ってやれよ」

耳元で囁くように響いた声が聞こえるやいなや、二人の男が臨也の両脇に座り、白い脇腹をいやらしい手つきで撫でまわしはじめた。だんだんと上昇していくその手は、やがて臨也の膨らみなどない胸にたどり着き、小さな乳首をぐりとねじった。その間も耳への愛撫は止まない。

「う、」

当たり前といえば当たり前だが、今まで触られたことはおろか、あまり触ったこともない乳首なんぞをぐりぐりと潰したり握ったりされても痛みしか感じなかった。しかし。

「っ、あっ!」

一人の男の手が、臨也の股間を揉みしだいた瞬間、明らかな嬌声が漏れた。咄嗟に口を押さえようにも、がっちりと掴まれた両腕は言うことをきかない。

「臨也くん感じちゃった!?」
「だまれ…っしね、しね!」
「だまれ、だって。おいこいつに媚薬ぶっかけてやれよ」
「んなもんねえよ、ザーメンでもかけてやれよ」
「ギャハハ、アホだ、アホ」

至極楽しそうに、けろりととんでもない事を言ってのける男達に、必死で繋ぎ止めていた臨也の糸―ある意味緊張の糸であり、ある意味理性の糸でもある―はブッツンと音を立てて切れた。堰を切ったように、紅い瞳に涙が滲む。

「…う、っう、やだっ…」

唯一自由のきく頭を振ると、艶やかな黒髪は耳を愛撫していた男にあたってパサパサと乾いた音を立てた。
耳、胸、陰茎。それぞれに刺激を与えていた男たちは、泣きじゃくりはじめた臨也の表情を見てニヤニヤと笑い、その動きをいっそう激しいものにした。








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