※まさかの夢主闇落ち
※最終回後



ふと、遊星がリューナの方を見た時、彼女は自分を抱き締めて崩れ落ちた。
体調でも悪いのか、と駆けよって手を取るが、その手はあっさりと払いのけられてしまった。
「…リューナ?」
戸惑ったように問いかけるが、彼女は答えない。
少しして、くいしばった歯から力を抜いて、小さな声で郊外まで来てほしいとだけ言った。
聞きとれたが、意味は分からない。
もう一度聞き返そうとしたその瞬間、リューナは立ち上がってグングニールに乗って行ってしまった。
「…」
飛び立つその直前、ちらりとこちらを向いたグングニールの視線が何故だか忘れられない。
縋るような視線だった、と思うが、ゆっくりと思い返している場合ではない。
戸締りがなされていることを確認すると、遊星はDホイールに跨った。



「…来たぞ」
大きなクレーターを尻目に、遊星は声をかける。
背を向けた彼女が、ゆっくりと振り向くが、その左目には見たことのない紋章が現れていた。虫を連想させるそれは、次第に強くくっきりと刻印されていく。
「…それは…」
「…龍達が、何か闇の力に侵されてる…私にもその影響が現れたみたい」
淡々と述べるが、苦しんでいることは明白だった。
真っ青の顔を懸命に遊星に向ける。痛々しいほどの健気さは、遊星の胸を強く打った。
「ごめん、なさい…私、もう…!!」
ずお、と大きな闇がリューナを包む。手を伸ばし、助けようとするが、何者かに腕を掴まれて、遊星はたどり着けなかった。
誰だ、と阻まれた方向を見る。が、そこには誰もいなかった。
不思議に思うが、それどころではない。
「…」
ふら、と闇の中から立ち上がったリューナの様子は、明らかに以前とは違う。
何も言わずデュエルディスクを展開させる彼女に、必死に名前を呼んだり声をかけたりするが、反応はない。
今のリューナに言葉は通じないと、遊星は自らのデュエルディスクを起動させた。


「私のターン…」
ピ、とカードを引く。
心もとない手つきだが、確かにカードを握っている。
遊星はリューナを見つめるが、彼女は一向に遊星を見ようとはしなかった。
「手札から、増援、発動。デッキからヴェルズ・カストルを手札に加える」
「!?」
聞きなれないカード名に驚くが、リューナは平然とカード処理を行っていく。
まるで、以前から使っていたデッキのように。
「ヴェルズ・カストル、召喚…効果で、ヴェルズと名のついたモンスターを召喚できる…ヴェルズ・ヘリオロープ、召喚」
「…」
あっという間に2体のモンスターを並べる。だが、どちらもチューナーでないことに遊星は油断していた。
「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築…」
聞きなれないフレーズが遊星を襲う。
巨大な、暗い銀河の中からは、1体の龍が姿を現した。
”それ”は、見たことがないモンスターのはずなのに、いつも見ていたような錯覚を引き起こす。
というより、いつも見ていた龍が、形を変えたと言った方がいいのかもしれない。
「ヴェルズ・オピオンをエクシーズ召喚…!」
黒いカード枠。以前ダークシンクロモンスターを見た時のそれと似ているが、チューナーを使っていない点が大きく異なっていて、別物であることは明らかだった。
それよりも。オピオンというモンスターの眼差しは、リューナが出ていくときに見せたグングニールのそれと全く同じだった。
やはり、と結論づけてしまう自分の考えを呪って、遊星は龍と向き合った。
「「龍達が闇の力に侵喰されている」とはこういうことだったんだな」
そう言うが、リューナは答えない。
「ヴェルズ・オピオンの効果、エクシーズ素材を1つ取り除くことで、デッキから「侵略の」と名のついた魔法・罠カードを1枚手札へ加える。…ヘリオロープを墓地へ送り、デッキから侵略の汎発感染を手札へ」
見えたカードのイラストには、龍が重なって黒い霧に覆われている様が描かれていた。
あれが原因か、と遊星は思うが、今はどうしようもない。
「…オピオンは、エクシーズ素材を持っている場合、お互いのレベル5以上のモンスターの特殊召喚を封じる」
唐突に言われた効果説明だったが、遊星にとってそれは死刑宣告も同然だった。
ほぼ全てのシンクロ召喚を封じられたのと同義であるその効果は、ターンを迎える前に彼を追い詰めていく。
「…カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「…俺のターン!」
ドローしたカードを確認した瞬間、遊星の頭の中に声が響く。
それは、散々今まで聞いたことのある、今は変わり果てた姿のグングニールのものだった。
『聞こえるか、頼む、主を救ってくれ』
繰り返しそう告げられるが、遊星にその術は見つからない。どうしたらいい、と答えるが、回答が返ってくることはなかった。
もどかしくて、思わず叫ぶ。
びく、と肩を震わせたリューナが遊星を見るが、奇しくも彼は、龍を見つめていた。
顔を見られなくて済んだ、と彼女は安堵するが、見えた遊星の顔には希望しかなくて。
彼の「どうしたらいい」という台詞からは、自分を救おうとする彼の意志が嫌でも伝わってきた。
「…俺は、ジャンク・シンクロンを召喚!手札から、ワン・フォー・ワンを発動、レベル・スティーラーを墓地へ送りデッキからチューニング・サポーターを特殊召喚!」
「レベル5以上のモンスターの特殊召喚は封じられている」
「分かっている…!俺は、レベル1チューニング・サポーターに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング!…集いし心がさらなる響きを轟かす、光さす道となれ!シンクロ召喚!アームズ・エイド!」
爪を宿したモンスターが現れる。だが、攻撃力は遠く及ばない。
「チューニング・サポーターの効果で1枚ドローする…2枚カードをセットして、ターンエンドだ」
「私のターン…ドロー…」
「メインフェイズ、俺は手札からエフェクト・ヴェーラーの効果を発動する。このターンのエンドフェイズ時まで、オピオンの効果を無効化!」
「けれど、攻撃は防がれていない」
「バトルフェイズに入る前に、リバースカード、リビングデッドの呼び声を発動。ジャンク・シンクロンを墓地から特殊召喚!」
「……ヴェルズ・オピオン、アームズ・エイドにアタック」
「リバースカード、オープン、緊急同調!このカードはバトルフェイズ中のみ発動できる、シンクロモンスター1体を特殊召喚する!俺は、レベル4アームズ・エイドに、レベル3ジャンク・シンクロンをチューニング!」
「…!」
「オピオンの効果は今エフェクト・ヴェーラーによって無効化されている。従って、このシンクロ召喚は止められない!集いし怒りが忘我の戦士に鬼神を宿す。光さす道となれ!シンクロ召喚!吠えろ、ジャンク・バーサーカー!」
赤い狂戦士が遊星の前に立ちはだかる。攻撃力が2700もあるモンスターのため、攻撃力2550であるオピオンの攻撃は止めざるを得ない。
「う…1枚セット、ターンエンド」
まさかオピオンがいてシンクロ召喚を許すとは、と、リューナは苦虫をかみつぶしたような顔をする。が、遊星は構わず、デッキに手をかけた。
「ドロー!」
カードを引くと、再び声が響く。
『…星屑殿、主を…!』
それだけだったが、遊星にとっては最大限のヒントだった。
引いたカードを確認すると、オピオンに向かって一度頷く。
「ジャンク・バーサーカーの効果、墓地の「ジャンク」を除外し、除外したモンスターの攻撃力分相手の攻撃力をダウンさせる!」
「…!」
「バトル!ジャンク・バーサーカーでヴェルズ・オピオンを攻撃!」
リューナのライフが1450削られる。がく、と崩れるが、それも一瞬で、すぐに立ち上がり埃を払った。
彼女が無事であることを視認すると、遊星は続ける。
「手札から、アンノウン・シンクロンを召喚!レベル7ジャンク・バーサーカーにレベル1アンノウン・シンクロンをチューニング!集いし願いが新たに輝く星となる、光さす道となれ!飛翔せよ、スターダスト・ドラゴン!」
輝く星龍が姿を現す。その光は、リューナに纏っている闇をいくらか消し去った。
「俺はカードを1枚セットして、ターンエンドだ」
冷たい風が吹き荒れる。
デッキも抗っていることを悟った遊星だが、今の自分にはどうにもできない。
リューナがデッキからカードをドローするのを見て、デュエルへと心を戻した。
「く…!や、嫌…!!」
彼女の顔色は悪い。
耳をふさいで、その場に崩れ落ちる。
嫌々と首を振るが、彼女の頭には声が重苦しく響き渡っていた。
言葉とは言い難いそれは、それでもリューナの精神に入り込んでいく。
出ていって、と彼女が切羽詰まった声で一喝すると、闇は少し距離をとった。
恐らく氷結界の抗う力と、スターダストの力が働いたのだろう、と遊星は思った。
それほどまでに闇に抵抗しているなら、救う他ない。
これ以上辛い思いをさせるまいと、彼は非情になる決意をする。
闇を纏った手がカードに伸びるが、なんとか引き離してリューナはその場で腕を押さえた。
「…ターン、エンド」
「…俺のターン、ドロー。…蘇れ、絆!エンジェルリフト!蘇生させるのはレベル・スティーラー!」
機械仕掛けの天道虫が現れる。
「遊星…もうっ…お願い…!私を…私じゃなくなる前に…!」
「…リューナ」
瘴気がまた彼女の周りを囲い始める。
手を伸ばすが、距離が邪魔をして届くことはない。
空を掴んだその手をぐ、と握り、スターダストの力を信じて、遊星は命令を下した。
「レベル・スティーラーでダイレクトアタック!」
足を引っ込め、体当たりをする。
防ぐものがないリューナは、それをもろに食らって、吹っ飛ばされた。
起き上ろうとするが、そこに音波が覆いかぶさる。
「スターダストでダイレクトアタック、シューティング・ソニック!」
「…!」
目を瞑り、衝撃に備えるが、音波がリューナを穿つことはない。
周りと、彼女に入り込んだ闇を浄化しきって、それはかき消えた。


いつまで経っても衝撃がこないので、リューナはそろり、と目を開ける。
そこには自分を包み込むように羽根を広げるスターダスト・ドラゴンの姿があった。
「…スターダスト…」
呆けて自分を見る主人の想い人を目に映し、安心したようにスターダストは姿を消しカードに戻る。
もうそこには、あの紋章はなかった。
「リューナ!」
自分に駆けよって助け起こす遊星の顔を見て、リューナは安堵する。
モンスターを展開する用意はあったが、遊星を傷つけたくない一心で闇の誘惑を断ち切った。それが出来たのが嬉しくて、思わず微笑んでしまう。
負けなくてよかったとだけ言うと、彼女は意識を失った。




気付いた時は、遊星の部屋にいた。
どうやらベッドに寝かされているらしい。
ぼんやりと目を開けると、すぐ横に遊星がいて、それが凄く嬉しかった。
「…」
「ゆうせい…」
手を伸ばす。ここを出る前に自分がしたように、払いのけられてしまうのではという不安があったが、そんなことはなく、遊星は迷いなくリューナの手を握った。
「…遊星…」
「どうした?デッキなら氷結界に戻っているぞ」
安心してくれ、とやさしく微笑まれ、リューナの視界がにじむ。
ごめんなさい、と謝ると、もう一方の手で頭を撫でられた。
「気にするな。それより、お前の心が聞けてよかった」
「…私の心?」
「そうだ、救ってくれと、確かにそう聞こえた」
なんのことか分からず、頭にはてなマークを浮かべる。遊星は、グングニールがそう言ったんだ、と教えた。
「それは私の心ではなくてあの子の心じゃないのかしら」
「…なら、お前はどうしてああなったんだ?」
「…」
「龍が闇に侵喰されただけならまだしも、リューナもそうなりかけていた。なら、デッキとお前は一心同体ということだと俺は思うのだが」
そうなのか、とリューナは首をかしげる。
デッキに守られるなんて、と思うが、助かったのは事実。
お礼を言わなくちゃ、と身体を起こそうとするが上手くいかない。
「無理に力を使ったから疲れたんだろう。寝ていてくれ」
「…ええ」
「俺の腕を掴んだのは、誰だと思う」
「?」
何のことかとリューナは遊星を見る。話題が飛んで追いつかない。
「リューナが郊外で闇に飲まれる前、誰かが俺の腕を掴んで阻んだんだ。心当たりはあるか」
説明され、やっと意味がわかる。
あれは、と口を開いたが、一旦止まる。
「…リューナ?」
「誰でもいいから遊星を止めてって言ったらちゃんと止めてくれたのね…。あのままだと貴方まで闇に毒されるところだったのよ」
「そうだったのか…」
「ええ、きっとガンターラだと思う。…彼を通じて、遊星が私のことを守りたいと思ってくれてること、伝わって嬉しかった」
にこ、と笑う。つられて遊星も微笑んで、頬を撫でた。



「救ってくれ、というのなら、俺はいつでもその用意は出来ている。」
「?」
「ここを出ていく時、素直にそう言ってくれればよかった」
「…迷惑かけたくなかったから」
「”郊外に来て”なんて回りくどい言い方よりはいいだろう」
「…う」
「もっと素直になってくれ。お前の心に触れさせてほしい」
「…!」
それを聞いたリューナは顔を赤くする。
照れている証拠を見られたくなくて、顔を背けようとするが、遊星に阻まれてうまくいかない。
「遊星、ちょっと、見ないで…!」
「素直になったら許してやる」
意地悪いその言葉は、至って本気で。
全てを見透かすような目をしているくせに、と思うが、逆らったらあとが怖い。

リューナは観念して、ありがとう、と言うしかなかった。



デッキの中では、グングニール達が元に戻ったことを祝うささやかなパーティが開かれている。それほどまでにデッキ同士の仲がいいとは、誰も知らない。
それぞれのデッキが良かった良かった、と言いあうだけだったが、二人の主人はそれに気がつかず、ベッドの上で抱き締めあった。


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氷結界の龍達がヴェルズ化した時から考えてたネタだけどちょっと思ってたのと違ってきてしまった…。
お題に沿ってない気はすごいしますが、突っ込んだら負けです。
シューティング・スターとかも出したかったんですけどね。
アクセルシンクロはライディングでしか出来ないって設定があるらしいとか。
セイヴァーはセイヴァーで確かED後って赤き龍の痣消えたんじゃなかったっけとか。いろいろあって出せませんでした。
もっと勉強せねば…!







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