久々知と二郭1 | ナノ
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 こんにちは、久々知せんぱい。

 少し舌足らずに、最期に別れたときとほぼ同じ年の姿での初対面のはずの挨拶に、びくりと震えてしまったのが運の尽きだった。
 ああ、前の世で忍として培った能力も、今はまったく役にたたない。


「綺麗な髪ですね、」


 相変わらず。
 もう高く結い上げられない、短い髪を評した言葉。そのあと、小さく、けれど聞こえるように言われただろう呟きは、いたずらっぽい表情とともにこぼされた。新しく委員会に入ってきた少年はおそらく、俺が前世の記憶を持っていることに気づいている。それに恐れを抱く。
 この子と―――伊助と再び出会えたのが嫌なわけではない。むしろ震えるほど嬉しいのだ。

 ただ。

 この何も知らない幼けない子どもを、以前と同じように自分に染めてしまうことが、たまらなく恐ろしいのだ。



 *



 なぜ俺は、二年間を堪えることができなかったのだろうか。
 あのころの二年間なんて、ほんとにあっという間だった。あの二年が終わってしまえば、もう二度と会わないから、たった二年間を堪えればいいことくらいわかっていたはずなのに。

 もし恋仲になったとしても、卒業すれば別れなければならないことくらい、わかっていたはずなのに。


 おれは、あのこをてにいれたのだ。



 *



 その指先は、やわらかい皮膚を既に淡く藍に染めて、荒れた指先はひどく痛々しかった。
 その小さな手を愛撫のように辿れば、恥ずかしそうにしながらもそれはどこか嬉しげで、その瞬間、俺は自分の過ちを悟った。
 この手のひらは、未だ道も定まらぬ。染まっているのは、ただひたすらこの子が生まれたときから共にあった藍色のみ。

 この無垢な手を、俺は、どう染めようというのか。

 自分がこの子をどうしてしまうのか、わからない。
 もしこの何も知らない子どもを、間違えた方向に導いてしまったら?

 俺に、それを背負う覚悟はあるのか。


 自分勝手と言われようとも、その手を離すべきだと。
 やっとつかんだ、その淡い手を。

 そして、俺は。



あいつの手を、涙で染めたのだ。