Novels | ナノ
×
- ナノ -


▼ ブルームーン

越前くんと遠山くんがお隣さんというパロディです。





「コシマエ」


 ゴンゴン、と何かを叩くすごい音と、それに不似合いにひそめられた声が聞こえた。またあいつか、としぶしぶ立ち上がり、薄青色の厚手のカーテンを引いて、窓を開ける。


「コシマエ!」

「バーカ」

「あだっ」

「もう少し加減しろって言ってるでしょ。窓が割れる」

「うう…すまん」


 目に見えてしょぼくれた赤髪に背を向けると、開け放した窓に足をかけてカーペットを敷いた床に着地した。まるで猫だ。
 一年位前に大阪から引っ越してきた遠山は、俺の部屋の窓とこいつの部屋の窓が向かい合っているのを知るや否や、頻繁に俺の部屋に渡ってくるようになった。
 最初はそれはもう窓が割れるんじゃないかっていうくらいの声と強さで窓を叩くから、こいつどころか俺まで母親に怒られた。
 加減を知らないこいつを何度となく叱って、そして部屋に入れた。べつに俺の部屋に来たところでたいてい別のことをしているのだから、わざわざ俺の部屋に来なくてもいいだろうに。
 多分、さみしいのだろうな、と思う。
 標準語ばかりの学校でひとりだけ大阪弁を操る遠山は、面白いから人気だけどどこか距離をおかれている節がある。完全に馴染めてはいない、というべきか。
 それでも一年近くこちらにいるはずなのに標準語にしようとしないのは、愛着があるからか、それともプライドか。いずれにしろ自分にはこいつの気持ちを推測することしかできないし、それ以上をする気もない。居たいならいればいい。気遣ってやるなんてそんなこと、元来面倒臭がりの自分がやるはずもない。


「ちょっと遠山、なにしてんの」


 少し目を放した隙にこちらに背を向けてごそごそやってる遠山に声を掛けると、分かりやすく背中が揺れた。


「…ちょっとそれ、俺のプリッツなんだけど」

「せやかてうまそうやったんやもん!」

「もんじゃないよ。さいあく」


 まったくもう、隠していたというのに、こういうことに関しては無駄に鋭い。
 ほんとムダだよね、と思いながら、遠山の口にくわえられていたプリッツを掠めとる。パキ、と折れる音がして、驚いた顔を尻目に通常より短くなったそれを噛み砕いた。


「…まず」

「コシマエ?」

「それあげる。俺いらない」

「ええの?!」

「いいって言ってるデショ」


 うるさいよ、と言いながらゲームの前に座ると、後ろから思い切り飛び付かれた。


「大好きやコシマエー!」

「うわバカこぼれてる!持ったまま騒ぐな!」

「なあなあこれワイのプレゼントやろ?」


 コシマエがたこ焼き味なんて冒険モノ、買うてくるわけないもんなぁ。
 へらへらしたにやけ面にムカついてひっぱたいても、今度は何も言わず笑みを深めるだけだ。
 ただ、いつでもタコヤキタコヤキとうるさいこいつを思い出して思わず手にとってしまっただけで、処分に困ったからこいつにやろうとしただけだ。
 そう言えば即座に嘘やろ、と返ってきて、ああもう、April Fool's Dayなんだからこれくらいの嘘は許せよ。




ブルームーン






title by まばたき

Happy birthday Kintaro Toyama!


prev / next

[ back to top ]