Novels | ナノ
×
- ナノ -


▼ ミルキーレイン

 天の川を見上げていたらふりだした雨が左目に入ってしまって、それが運わるく織姫様の涙だったものだから、オレは涙が止まらなくなってしまった。
 つぎの日、学校にいく途中に会った桃先輩には、運がわるかったなって頭を撫でられた。
 学校であった乾先輩には、ひとしずくなら今日中にとまるだろうって苦笑された。なってしまったのならしかたない。脱水にならないように水分を取りながら、今日一日を乗り切るしかないだろう。
 織姫様がないている。ことしもあえなかった、あとすこしだったのに、と。オレはそんな織姫様がなきつかれてしまうまで、なぐさめるしかない。今年で七年、七夕の日には雨がふってしまうから、そのたび織姫様はこうしてないている。毎年毎年よく泣くものだとおもうけれど、そんなことは織姫様に伝えないように。織姫様がますますかなしんでしまうから。
 部室に顔を出すと、きいているから休んでいいと言われた。くやしいけれど、今日はしかたない。こんな状態で部活をやってもまともに動けないし、脱水になってしまっても困る。あいさつをして部室を出ると、今日はメガネをしていない瞳から、なみだをながしつづけている部長とはち合わせた。

「あれ、部長も?織姫様、今年いっぱいないたんスね。」
「ああ、いや、今年は――」

 その瞬間、織姫様が悲鳴をあげた。あえた、やっとあえた、ああ七年ぶり!その瞬間涙が止まって、オレはぽかんとしながらほおに残ったなごりをぬぐった。

「ことしは、彦星様もないてしまったらしい。七年逢えなかったからつらかったのだろう。」
「へえ。そんなことってあるんスね。」
「彦星様と織姫様がここまで逢えないことも珍しいだろう。こんなことは稀だ。」

 そういいながらメガネを取り出してかけると、やっといつもの部長がもどってきた気がする。

「こうして、彦星様と織姫様を逢わせればよかったんだな。」
「そっすね。」
「よし、油断せずに行こう」

 そういって部室に入る部長に続いて、オレも部室に入る。部活を休むことにならなくてよかった。バイバイ、織姫様。来年も逢えるといいね。

prev / next

[ back to top ]