▼ 流れ星といっしょにきみがぼくのとこに落ちてきたらいいのに
「赤也」
呼んだ声が、予想外に優しげであったことに自分で驚いた。名前を呼んだ理由は些かやんちゃが過ぎる後輩を叱るつもりだったからで、俺自身も多少なりとも怒りは感じていたはずだったのだが。
「先輩?」
先程まで叱られることに怯えて小さくなっていた目の前の後輩も、今はきょとんとこちらを見ていて、仕切り直すように殊更低めの声を意識して口を切った。
「どうもしない。赤也」
だが、どうもしないという割に怒りはもはや欠片も見当たらず、代わりにあるのは場違いにも程があるくだらない衝動だ。
じりじりと圧迫するそれを散らすようにらしくもなく軽く髪を乱して、一瞬後にするりと手櫛で戻る自分の髪により息苦しさが増した気がして、ふう、と軽く息を吐く。
すると斜め下の位置にある艶消し黒の色をした頭がびくりと震えて、ああ、怯えさせてしまったか、と気付く。
自分が作り出していた沈黙は確かに重くて、もしかしたらこれで叱ったことになるかも知れない、ふと考えついたそれは自分の友人に知れたら甘いと言われることくらいの予想はつくけれど、事実後輩は顔を俯けて視線をさまよわせている。
まあいいだろう、と苦笑って、先程よりわずかばかり下にある強めのくせっ毛に手を置いた。
「次はないぞ、赤也」
そういってそのまま髪をぐしゃぐしゃといつもよりひどく引っかきまわせば、すみませんっした、とかわいくない返事がかえってきて、笑いながらもう片方の手ものばした。
息苦しさは、いつのまにかきえていた。
流れ星といっしょにきみが
ぼくのとこに落ちてきたら
いいのに
title by アメジスト少年
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