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▼ まだまだぼくたちは幼いままでいい

※全国後、U-17はなし。手塚は青学にいて、越前はアメリカから一時帰国。





「部長」


 聞き慣れた呼称、聞き慣れた少し高い声に反射で振り返った。そうすれば目に映るのは既に後を譲った後輩と、一時帰国している聞き慣れた声の持ち主で。


「…!手塚先輩」

「こんちは」

「…ああ」


(…気まずい)

 気遣いと驚きが入り交じったような表情をした後輩たちから目を逸らして足早にその場を立ち去る。自分の未練がましさを露呈してしまったようでひどく恥ずかしい。

 しかし、なぜ今更。もう割り切れているつもりだった。今のような失態を犯したことなど、一度もなかったのに。

 いや、わかってる。

『部長』

 いつもと全く同じトーンで、別の誰かを呼ぶ。
 その声で呼ばれるのがもう俺ではないと思い知らされた瞬間、かつてない感情が己を支配した。

(ずるい、ひどい)

 その名で呼ばれるのは、俺であったはずなのに。








「あーあ」


 くしゃり、髪をかきあげて、未だ消え去ってはくれない違和感をムリヤリごまかす。


「おい、越前」

「なんすか?」

「いいのか、…手塚先輩」

「べつに…、特に言うことないし」


 それに呆れたように音をたてて息を吐いて、教室にいくようにうながされる。
 たいした用もないのに新部長を呼び止めたのは、単純に慣れるためだ。あの人はもう部長ではない、と自分に言い聞かせるための。
 だというのに。

(ひどい、ずるい)

 俺だってつらいのに。




まだまだぼくたちは幼いままでいい






title by アメジスト少年

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