別れの理由があった | ナノ
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「本気なのかい、蓮二。」

「ああ、もちろん。」


 す、と目を細める精市の視線を受け止める。弦一郎もひどく厳しい表情をしていた。それに、変えるつもりはない、という意味合いを、短い言葉にこめた。


「常勝の掟を崩すつもりか。」

「そうだ。」


 弦一郎がいっそう険しい表情になる。何か言おうと口を開こうとしたのを、清冽な声が遮る。


「真田」


 ぴ、と手をかざしただけで弦一郎を黙らせた精市は、ゆっくりとこちらを見つめた。厳しい、すべてを見透かす神のようだ。


「本当に、それでいいんだね?」


 ああ、そう頷いた瞬間、俺は自らの手で賽を投げた。



 *



 ぐったりと四肢を投げ出す白い身体が目に入った瞬間、我に返った。
 周りにはいまだ熱気がまとわりついている。習慣のように癖のある黒髪の生え際に浮かんでいる汗をぬぐえば、閉じられた瞼がびくりと震えた。


「すまない、赤也。大丈夫か?」

「平気っす…。でも、ねみぃ…」

「ああ、寝ていいよ。」


 水気を含んだ髪を軽く撫でる。これだけ汗をかいているのだから、拭いてやらなければいけない。いつもならできることがしかし今日はできなかった。体が重い。猛烈な眠気が襲う。
 やはり精神が不安定な状態でいたすべきではないな、と頭の中の妙に冷めている部分が言う。正しいと信じているはずなのに、罪悪感が重くのしかかり、なのに謝ることも許されない。お互い明日も動けるようにセーブしなければならなかったのに、何度我を忘れそうになったことか。いっそすべてを忘れてしまえればいいのに、どこか咽喉の詰まったような感覚はどれだけからだが熱くなっても消えることはない。
 精神も肉体も、限界に達していた。


「柳さん?大丈夫?」

「ああ、いや…。すこし飛ばしすぎたようだ。」

「ムリしなくていいっすよ。一晩くらい平気ですって。」

「しかし…。」

「いいから。寝ましょ。」


 眠いからなのか、いつもより舌足らずに笑うと腕に張り付いてくる。跳ねた髪の毛の先が逆にくすぐったくてきっちりと抱きしめなおすと、力を抜いたようで下にした腕に体重が掛かる。


「ねえ、柳さん。」

「ん?」

「俺は、柳さんになら何されてもいいと思ってるんす。」

「…赤也?」


 ひどく眠たげな、くぐもった声で、まるで当然の摂理のようにいわれた言葉に目を見開いた。あまりに赤也らしくない。それに、
 そんなことを、言われてしまったら。


「俺は、柳さんに辛い思いをしてもらいたくないだけなんですから。俺はまったく辛くないです。だから、そんな謝んないでくださいよ。」


 ああ、そんな風に言うくらいなら、いっそ。



憎んで下さい、恨んで下さい





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