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1、ロード・オブ・ウォー



 視察と称して系列会社のショッピングモールを歩けば、ざわめきと共に視線が集まる。これではあまり意味がないのだが、あくまで名義上のことだし問題はない。適当に歩いている人を見回しながら歩けば、どこか聞き覚えのあるおっとりした低い声が聞こえた。


「あかんよ、湊。こないだ似たようなもん買うたばっかりやろ」

「せやかてゆかちゃんが〜」


 ゆっくりと諭すように、小さな少女に語りかける。少しさっぱりした藍色の髪、変わらない丸眼鏡、あの頃より更に低くなった、どこか儚い声音。


「忍足…?」


 そう呟けば、腰を屈めて目の前にいる少女に合わせていた黒い瞳を、さ迷わせる。


「…跡部」


 懐かしい、そう告げたとわかる細められた黒瞳に、魅入られる。


「久しぶりだな、忍足」

「久しぶりなんちゅうもんやないで」


 学生時代とは微妙に違った風に薄く笑った忍足は、けれどすぐに視線を下げる。そのことに、見当違いの小さな苛立ちを覚えた。
 ―――その子どもは、俺より優先するべきものなのか。


「跡部、これ娘の湊な。湊、あいさつしぃ。跡部さんや」

「はじめまして!おしたりみなと、ごさいです!」


 ああ、似てる、と思った。
 女の子は小さい時分は男親に似るというが、この少女に限って言えばそれは嘘だろう。きらきらと輝く大きな瞳、そしてぽってりとした唇。『あいつ』にそっくりだ。


「はじめまして、跡部景吾だ。好きなように呼んでくれ」


 するり、撫でた髪は色こそ違うダークブラウンだけど、さらりと流れる直毛は、確かに焦がれ続けた懐かしい感覚だった。
 この少女は、確かに忍足の子どもだ。




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