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「あ、あった」
「み、み……み……み……」
「みみみみみみみ」

 合格モニターに、自分の名前をすぐに見つけた。良かった〜受かってた。だいたいみんな受かっているようだけど、爆豪くん、それから夜嵐くんと喧嘩してた轟くんは落ちてるようだ。私はほとんど見てないから原因は分からないけど、何かあったんだろうな。夜嵐くんが盛大に詫びている。何かありそうな様子だったもんなあ。

『え〜全員ご確認いただけたでしょうか? 続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますのでしっかり目を通しておいてください』

 名前を呼ばれてプリントを受け取る。おお、92点。百には一つ至らなかったけど、なかなかの高得点だ。減点内容は轟くんと夜嵐くんの喧嘩の時に一瞬気を取られていたことや、トリアージは早い段階で人に任せて治癒行為に専念したことがいいといったアドバイス。確かにそう。

「磨も92点……!?」
「地味にめちゃくちゃ優秀だよな〜緩名って」
「ずっと別行動だったしなー」
「だって医療班だもん」

 地味にって言うな〜。確かに派手なことはなんもしてないけど。縁の下の力持ちなの、私。
 仮免許を取得して、これで緊急時に限りヒーローと同等の活動を出来るようになった。仮とは言え、なかなか重たい。オールマイトが引退し、敵はますます勢い付いて行く、変革の中だ。ヒーロー飽和社会と言えど、だからこそ、求められるレベルは高くなっていくだろう。無意識に力が入っていたせいで、評価のプリントに皺が寄っていた。
 そして、二次試験での不合格者は、三ヶ月に渡る補講、それから個別のテストの上で、仮免許を取得できるチャンスが与えられるらしい。当たり前に、うちのツートップは受けるだろう。

「やったね轟くん!」
「よかったね、爆豪くん」
「っせえ! 精々首洗ってろやァ……!」

 おお、めちゃめちゃやる気だ。その意気だ。



「むん」
「どしたのー?」
「や、ちゃんと顔しとけば良かったと思って……」
「あー、写真急だったもんね」
「ねー! 私もそれ思った!」
「葉隠さん写っとらんやないかい!」
「ナイスツッコミ」

 ヒーロー仮免許、写真がめちゃくちゃ流れ作業の急だった。USJ(本物)の年パスくらい急。タイミング謎だったからめちゃくちゃ真顔で撮られてる。見して見して、という三奈に見せると美少女ー! と声を上げた。まあ……。でもちょっと気に入らない。早く本免許取ってバチバチに決めよ。
 先生がMsジョークと、合同演習でも、と会話をしている。胡散臭イケメンの真堂先輩と目が合った。や、やっぱ胡散臭いわ。一礼だけしておくと、笑って手を振られた。ほら、胡散臭い。

「おーい!!」
「あら、士傑まで」
「声デカ」

 ドドドドドドド、とすごい勢いで夜嵐くんが走ってくる。全身で騒音を体現してるの凄いな。

「轟!! また講習で会うな!! けどな! 正直まだ好かん!! 先に謝っとく!! ごめん!!」
「どんな気遣いだよ」
「ウケる」
「こっちも善処する」
「あ! 緩名さんもありがとうございました!! また!!」
「は〜い」
「……懐かれてんのか?」
「犬みたいに言うじゃん」

 ほんの少し首を傾げる轟くん。懐かれてはないよ、たぶん。けど喋ってた時間が長かったからだろう。

「おい、そろそろ行くぞ。さっさとバス乗れ」
「はい!」

 先生に声をかけられて、みんなでバスに乗り込む。バスの座席は前方、隣は緑谷くん、前に先生だ。あ〜やっと一息ついた気がする。

「ねえねえ緑谷くん、見て」
「うん! 仮免許だね……!」
「じゃなくて、写真」
「写真?」
「そ〜。盛れてなくない?」
「盛れ……はは」

 仮免許を見せ付けると、緑谷くんはキラキラしていた。仮免許、嬉しいみたい。嬉しいよね。ヒーローに憧れの強かった、「無個性だった」緑谷くんからしたら、余計に。まあでもそんなことはどうでも良くて、問題は写真だ。緑谷くんには苦笑いで返されたけど、盛りたいじゃん。

「シャッタータイミング謎だったよね〜」
「僕もちょっと変な顔になっちゃった」
「どれ……え、かわいいウケる」
「かわ……いくは、ないんじゃ……ないかな……」

 手元を覗き込むと、緑谷くんの仮免許に印刷された写真は、真ん丸な大きい目を更に見開いて、緊張した様子だった。羊みたい。ウケる。

「ねえねえねえせんせー」
「ちゃんと座れ。なんだ」
「先生の免許証見たい!」
「ア?」
「えっ!」

 前の席の先生に話しかけると、嫌そうな声。見えてないけど絶対めんどくせェって顔してるのが分かる。座席の隙間から振り向いて、私たちを見たけれど、私はともかく緑谷くんはバッとどこからともなくノートを取り出して、イレイザーヘッドのヒーロー免許証……! と興奮する様子を隠せていない。まじでヒーローオタクだね、緑谷くん。

「ねえねえねえみたいみたいみたい」
「うるせェ駄々っ子か。いくつだおまえ」
「みたいみたーい見して貸して触らして〜指紋付けさせて〜」
「緩名さん……」
「ハァ……ったく、ホラ」
「やったー!」
「わ、すごい……!」

 ピッ、と差し出された免許証。これぞ粘り勝ちである。やったやったと受け取って、緑谷くんと写真を見る。そこには。

「めちゃくちゃ不審者だ! ヤッター!」
「なにがやったーなんだ」
「え! 先生のヒーロー免許証! 私も見たーい!」
「いいなー!」

 神野の時みたいな、髭剃って髪まとめたまともな感じなのかなってちょっと思ってたけど、ちゃんとノーマルの不審者スタイルだった。ヤッター! 緑谷くんは生のヒーロー免許証に感動している。私もー! 俺もー! と車内がにわかに騒がしくなったところで、うるせえ、と先生が一喝した。すみません。今度先生たちのヒーロー免許証たかりに行こ、って緑谷くんを誘うと、声はないながらもコクコクと必死に頷いてくれた。



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