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私が噎せている間に、どうやら1A全員が一次試験に通ったらしい。同時に、合格者の定員に達する。すご〜い、ギリギリだけど皆行けた。わいわいと喜びを分かち合っていると、アナウンスが入りモニターが切り替わる。
『えー100人の皆さん。これご覧ください』
「フィールドだ」
「なんだろね……」
画面には一次のフィールド。BOOM、といくつも爆発音が鳴って、徐々に破壊されていく。もったいない。
「ええ……」
ドン引きしてしまった。ヒーローやっぱり怖くない? おかしい人多くない?
『次の試験でラストになります! 皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』
「救助……!」
二次試験の内容はどうやら救助演習らしい。それにしても、この破壊され尽くした街は。
「神野……」
げぇ、悪趣味すぎる。まだ事件が終わって一ヶ月も経っていないのに。まあ試験内容なんて予め決められているものだろうし、受講者に被害に合った人間がいるからって、それくらい乗り越えられなくてどうする、って感じなのかもしれないけど。趣味悪〜。
呟いたのはぼそっとだけど、周りにいる数人には聞こえていたようで、ハッとした顔でこっちを見た。やっば、迂闊だった〜口と脳みそ直結してた。気使われるの、あんまり得意じゃないんだよね。気使わせるのなら好きなんだけど。隣に並んだ百がそっと手を握ってきた。別に平気だよ。へらりと笑うと、複雑そうな顔をする。あ〜あ、本当は迂闊だったな。
「ッデ!」
「ヘラヘラしてんなブス」
「は? 爆豪くん目か脳やばいんじゃない? かわいいの具現化に対してなんてことを……無視かい」
「大丈夫ですか?」
バチコン! とかなり良い音を後頭部で鳴らされた。反射的に抑えると、スタスタと爆豪くんがどっかに行く。なんだコラ、と思ったけど、爆豪くんなりの気の使い方なんだろう。はは、同じ立場なのにね。だからって殴んなくても。ブーブーと怒るフリをしながら百に抱き着くと、後頭部をさすられた。よく響いた音のわりには、全然痛くない。本当に不器用な子だ。
ジリリリリ、と鳴り響くエマージェンシーコール。リアリティの為だろうけど、突然でびっくりした。
『敵による大規模破壊が発生! 規模は〇〇市全域建物倒壊により傷病者多数!』
ゆっくりと控え室がまた開いていく。このこだわりなに?
『道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ! 到着するまでの救助活動はその場にいるヒーローが達が指揮をとり行う。一人でも多くの命を救い出すこと!!』
START! の合図とともに、みんなが一斉に駆け出した。救急先着隊の到着に著しい遅れ、となると、私のやることは決まっているだろう。
流石に一年多く訓練をしているだけあって、先輩たちの行動は迅速だ。暫定危険区域を定め、比較的安全な場所を臨時の救護所にする。
「治癒個性です。トリアージ、応急処置は任せてください」
「ああ、雄英の……頼んだ!」
「頼まれました」
運び込まれて来る傷病者を、他校の先輩と手分けしてトリアージ、危険度の高い黄、赤の人を中心に看ていく。後ほどの病院でも間に合うだろう人は応急処置を先輩へ。そうしている内に、重傷人ばかりが運び込まれるようになった。HUCの人達、怪我のフリとは言え演技が上手すぎるので少し本当に心配になる。
「緩名さん!」
「はーい! 行きます」
呼ばれて次の手当に行くと、比較的軽傷、呼吸、脈拍も落ち着いている。頭を強く打ったりもなく、どうしたのかと思えば、赤黒く変色している足首。演習とはいえ瓦礫の多く、足場の悪い中だ。実際に擦り傷を作ったりしているHUCの人は結構多い。
「大丈夫ですよ。すぐ治しますね」
「……ごめんなさい」
「ふふ、いえいえ」
HUCという立場上、少しバツが悪いのだろう。変色した足首に個性を使うと、キラキラと一瞬輝いて、直ぐに腫れが引いていく。うん、便利。
「動かしにくかったり違和感はありませんか?」
「ええ、大丈夫。ありがとう」
「念の為固定……をすみません、先輩お任せできますか?」
「もちろん!」
「治ってはいますが、暫くは骨が柔らかくなっているので安静にしてくださいね。お大事に」
重病者の元へ再び呼ばれたので、通りがかった応急処置班の先輩におまかせした。ニッコリと笑顔で対応する。患者の安心のためにも、笑顔でいなさい、と言われている。
次、その次、と繰り返していると、運び込まれる患者の数が少し少なくなってきた。後は救護所から遠い被災地かな、と汗を拭うと、突如BOOOM! と轟音と地響きが。テロ……なるほど。そりゃあ暴れる敵はいるよね。
『敵が姿を現し追撃を開始! 現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ救助を続行してください』
やること多いな。制圧には向かない、けど避難にはわりと向いている。敵が現れたのは救護所から近くだ。イケズ。
「個性で“軽く”します。自力歩行が困難な方を集めて、一気に移動させてください」
「! 分かった」
避難所のヒーロー達に協力を煽ぐ。体重の十分の一ほどまで軽くさせて、足を怪我している人、寝たきりの人を中心に移動させる。反動がキッツイ。いくらキャパが増えたとはいえ、個性を使う対象が多すぎる。
「床への強化は可能か!?」
「やります」
「ありがとう、頼んだ!」
「こちらこそ、任せます」
床自体に強化をかけて丈夫にすると、その上に傷病者を乗せて力のある人達で運び出す。効率的だ。敵の攻撃がめちゃくちゃ救護所に向いているので、出来るだけ迅速に移動させたい。ギャングオルカ超怖い。轟くんの氷がチラッと見えた。攻撃力の高い人が応戦してくれると大変ありがたい……んだけど、何か喧嘩してない!? 夜嵐くんと轟くんが言い合っているのが見える。なにしてんのポイント100億点。
「緩名さん! 君も避難を!」
「向かいます! お姉ちゃんと一緒に行こうね」
「……うん」
遅れて避難してきた涙声の少年を抱き上げて、ぽんぽんと頭を撫でた。殿を務めるのには向いていないので、集団避難のすぐ中を走る。うえ、後ろから敵の人たちが迫ってきてる。応戦向きじゃない個性持ちの人が多いので困る。
「……っ、!」
踏みしめた大地が、小さく揺れる。この感覚、あの胡散臭イケメンさんの個性か。ありがとう、胡散臭いっていってごめん。とりあえず避難に集中出来そうだ。良かった。
「怪我人はこっちへ!」
「手当に当たれるか!?」
「大丈夫です!」
奥まった場所に、避難所が出来ていた。バフで丈夫になった床板がある。周りよりもいくらか清潔なので、マシだろう。
再び救護に当たっていると、ビーーーッ! とブザーの音が鳴り響いた。びっくりする音止めて。
『えー只今をもちまして配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。まことに勝手ではこまざいますが、これにて仮免試験全肯定終了となります!!!』
「終わった!?」
なるほど、全ての被災者の救助で終わるのか。ひとまず良かった、かな。二次試験でも雄英の誰とも絡まなかったな。傷病者の受け渡しくらい。
「おつかれさまでした」
「緩名さん! お、おつかれさま!」
「お疲れさん!」
名前も知らないけど協力した人達に挨拶をして一礼する。疲れた〜。救助活動にはほとんど当たらなかったけど、まあまあ個性使った。適材適所だ。救護所にずっといたので受かっているかは分からないけど、大丈夫な気がする。何を基準として、何を見られているのかは分からないけど、パニックに臨機応変且つ的確に対応出来るか、あとは協調性とかかな。グッと伸びをして、更衣室へ向かう。みんなと合流しよ。
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