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「ちゃんと起きて来たの天才じゃない?」
「えらい! よし行こー!」

 ショッピングモールでの待ち合わせ時間よりも少し前、駅前で三奈と合流する。褒め方が雑だ。普通に起きてなんなら朝課題終わらせてシャワーまで浴びれた。めちゃくちゃえらい。自分を褒める天才になっていこ。

「今日のアイシャドウ、ラメめちゃくちゃかわいい〜」
「でしょ〜? ギラつかせてこ」

 ギラギラ大好き。私カラスだから。マットなのも好きだよ。合流してとりあえず自撮り。それからショッピングモールに向かって、くだらないことを話しながら歩き出す。私も三奈も、何話したか五分後にはだいたい忘れてる。

「あれ、磨香水つけてる?」
「今日? つけてない」
「なんかいい匂いする!」
「ほんと〜?」

 三奈が私の首筋に顔を近付けてくんくんと嗅いでいく。くすぐったくてケラケラと笑い声を立ててしまった。髪の毛がふわふわで擽ったいんだって。

「ボディミルクかも」
「いいやつ?」
「わりと。今度合宿持ってくね」
「やったあ!」

 ボディミルクだからそこまでキツくは香らないけど、三奈の鼻がいいんだろう。めちゃくちゃ嗅いでくる。

「今度ここ行きたい」
「え、かわいー!」
「夏休み行こ〜」

 インスタを見ながら行きたいお店をピックアップしていく。合宿があるとはいえ、ヒーロー科にも夏休みはある。どうせ三奈に宿題で泣き付かれるのは見えているので、ついでにお出かけの予定も入れておく。

「お、緩名と芦戸じゃん」
「おっ」
「あ、おは〜」

 後ろから呼ばれた名前に振り向けば、上鳴くんと切島くん。

「今日の緩名めちゃくちゃかわいくね?」
「え、いつもはかわいくない?」
「や、今日は特別かわいいんだって!」

 化粧してるからかな。そうでなくても学外で友達に会うとなんか違って見えるよね。私服だし。

「何見てんの?」
「これ、ここかわいくない?」
「えっかわいい。女子ってこういうの好きだよなー」

 スマホの画面を覗き込んできた上鳴くんに見せる。ちゃっかり肩を抱いてくるあたり、チャラさが伺えるよね。見ていたのはスムージーアートのお店。超かわいいしローカロリーって言う女の子の好きなやつだ。

「夏休み磨ん家泊まって行くんだー。宿題も終わらすよっ」
「え、いいなー! 俺も俺も」
「宿題やんのか? 俺も助けてくれ!」
「え……」

 普段ならいいよ〜と即決するところだけど、三奈、上鳴くん、切島くんの成績を考えると言い淀んでしまう。下位層三人に宿題を教えるの、絶対手が回らないもん。

「百か爆豪くんか緑谷くんか飯田くんが一緒にくるならいいよ」
「ヤオモモー!」
「バクゴー!」

 夏休み、私の家で宿題終わらそうぜ企画になってしまった。まだ始まってもないのに。いいけど。

「お、結構みんな集まってる」
「目立つな〜」
「人数いるからね」
「おーい!」

 私達がどうやら最後だったみたいだ。20人弱もの団体なので、まあ目立つ。飯田くん、休日のパパみたいだ。

「おはよ」
「もう昼だぞ」
「一日の挨拶はおはようでいいんだよ」
「そういうものか。おはよう」

 背の高い障子くんを見上げて挨拶をする。バイトとか始めると夜でもおはようが挨拶になって来るけど、確かに高校の時はそうでもなかった気がする。部活してる子なら別だけど。

「体育祭ウェーーーイ!」
「はは、絡まれてる」

 体育祭、未だに声かけられるよね。これだけいれば皆目的もバラバラで、どうやら各々で回ろう、ってことになったらしい。

「障子くん何買うの?」
「そうだな……足りないものが分からないから、とりあえず一通り見て回るつもりだ。緩名は?」
「んー、私もそんな感じかな。旅行用のアメニティは欲しいかも。あと水着?」
「学校のでは駄目なのか」
「色気なくない?」
「……必要か?」
「いるいる〜!」

 新しい水着っていっぱい欲しくなるし。かわいいの。障子くんの水着も選んじゃお。並んで歩くと歩調を合わせてくれる。紳士だ。

「合宿所洗濯機あるんだっけ」
「確かあったはずだ」
「あ〜じゃハンガーとかいるかなあ」
「嵩張らないか?」
「折りたためるの結構あるよ! あこれかわいい」

 合宿に全く関係ない物がかわいい。入浴剤持って行っていいかな。大浴場に。めちゃくちゃ怒られそう。猫のマッサージ器具もかわいい。

「それは何に使うんだ?」
「あ、やったことない?」
「ないな」
「じゃあ屈んで」

 よくある頭がゾワゾワする、細いタコ足みたいなマッサージ器具。言われる通り屈んでくれた障子くんの頭に、少し背伸びしてマッサージ器具を差し込んだ。目を見開いてぞわわと背筋を震わせる障子くん。こんな顔初めて見た。面白い。動画撮っとけばよかった。

「どう?」
「なんというか……これは……ゾワゾワするな」
「ゾワゾワするでしょ」

 ゾワゾワしている様子の障子くんを写真に納めて、乱れた髪を手ぐしで直す。固めの髪の手触り。よし、綺麗に直った。

「障子くんも夏休み遊ぼうね」
「……ああ」
「三奈達と、宿題やろって言ってたんだけど、障子くんも来る?」
「どこでするんだ?」
「私ん家」
「……大人数で行っても平気なのか?」
「ん? 大丈夫だよ。流石に一クラス丸々とかは無理だけど」
「……そうか。ならお言葉に甘えさせてもらおう」

 う〜ん、かわいい。手を伸ばして障子くんの頭を撫でた。といっても、普通に立っている障子くんの頭頂部には届かないので、頭の側面だけど。

「障子ィィイイ!」
「わっ、なに」
「峰田くん! 公共の場で大声は良くないぞ!」
「うるせー! なんなんだあいつらイチャイチャしやがって……!」

 声の元へ目を向けると、峰田くんがギリギリと血涙を流しながらこっちを見ていた。大声を諌めるのは飯田くん。謎コンビだ。

「やあ、緩名君達もこの辺りを見ていたんだな!」
「うん、飯田くんは峰田くんとデート?」
「デッ……!?」
「なんでオイラが男とデートしなきゃなんねェんだよおお! 緩名とデートさせてくれよ! 変わってくれ障子ィ!!」
「え〜、障子くんは私とデート中だから駄目」
「緩名……」

 ぴたっと障子くんの腕に引っ付くと、困惑の声が上がる。デートなので。峰田くんは今にも飛びかかってきそうだ。ここであったのも何かの縁だ。ついでにインカメを起動して、写真を撮ろうとした所で、グループメッセージにお茶子ちゃんからの通知が届く。

「えっ!」
「どうした」
「これ」

 緑谷くんが、USJを襲った敵と遭遇、襲われたらしい。慌てて集合場所まで戻ると、警備員の人達が集まっていた。

「緑谷くん!」
「大丈夫?」

 怪我という怪我はないようで、安心したけれど、その後ショッピングモールは臨時閉鎖、ヒーローや警察が捜査に当たることになった。緑谷くんは警察での事情聴取があるということなので、それぞれ帰宅を促された。




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