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「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることになった」

 ……なった?マスコミでも警戒してるのかな。災害水難なんでもござれ、今日の授業は人命救助訓練らしい。コスチュームはどうしようか迷ったけど、皆着るみたいだし着ることにする。

「バスの席順でスムーズに行くよう番号順に二列で並ぼう!」

 莫大な敷地を抱える雄英内は広い。移動教室にバスを使う高校なんて初めてだ。笛まで吹いて飯田くんが張り切っていたが、バスはよくある市バス系の形をしていたので、皆好き好きに乗り込んでいる。一番後ろの広いとこ、に行こうとしたけど埋まっていたので、その手前、空いていた轟くんの隣に腰を下ろした。絡みにくいピーポパート2だ。

「……」

 会話?ないない。轟くん、ちらりともこっちを見ないし。そういえば、半身を覆っていた氷のなんか……なんかがなくなっている。邪魔だったのかな?動きにくそうだもんね。

「あなたの“個性”、オールマイトに似ている」

 あ、確かに。前に座る響香の後頭部に小さい三つ編みをいっぱい作っていたら、前方で緑谷くんと話していた梅雨ちゃんの言葉が、ストンと落ちた。分かる。それな。緑谷くんの吃り方とか、この入学から短い期間でのオールマイトとの絡みとかを見てると、なーんか、あるんだろうな、とは見えてくる。ははん、そういうことね。完全に理解した。深く知って良いことはなさそうだから、考えるのは止めておく。

「派手で強えっつたらやっぱ轟と爆豪だな」

 それも分かる。味方ならいいけど、絶対戦いたくはないタイプ。二人とも容赦なさそうだし。

「ケッ」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
「ンヒッ」

 梅雨ちゃんの発言に思わず笑いが漏れてしまった。まじそれ。ずっとキレてる。エネルギーありすぎてやば。

「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげえよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」
「あひひひはは」
「てめぇも気持ち悪い笑い方してんじゃねぇぞコラ鈍間アホ女ァ!」
「いひゃいひゃいひゃい」

 ぐにゅう、とほっぺたを抓って伸ばされる。さては爆豪くん私の柔らかマシュマロほっぺを気に入ったな?いくら触り心地がいいからって……許せない!ふみません、と謝るとチッ、と舌打ちをこぼして前を向き治った。痛い。

「あ、ごめん。爆豪くんがうるさくて」
「アァ!?」
「……いや、別にいい」

 気付けば、窓際に肩肘を付いて目をつぶっていた轟くんの双眸が私を見ていて、うるさくしすぎたかと謝る。ほんとごめん。爆豪くんが。

「強いって」
「……何がだ」
「轟くんが」
「……そうか。俺はお前に負けたけどな」

 き、気まず〜。会話を振ってみたら失敗した。戦闘訓練では、氷という個性が私との相性がちょっと悪かったのと、轟くんが私達を舐めきっていたのが原因で、普通にやれば当たり前に轟くんの方が強い。そこから会話もなく、間もなくバスは演習場にたどり着いた。


「すっげー!!USJかよ!?」

 辿り着いた施設は、それはもう手のこった、まさにテーマパークのような場所だった。すごーい!アトラクション欲しくなるな。

「水難事故、土砂災害、火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も……」

 宇宙服を着た先生が、施設の説明をしてくれる。先生が作ったの?すごすぎる。

「嘘の災害や事故ルーム!!」

 略してUSJ。色々怒られないか心配になる感じだね。

「スペースヒーロー「13号」だ!災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー!私好きなの13号!」

 緑谷くんのヒーローペディアが発揮される。あまりヒーローに詳しくないから便利でありがたい。そしてどうやらオールマイトは不在なようだ。

「えー始める前にお小言を一つ二つ……三つ……四つ……」

 先生の立てられた指が増えていく。お小言、多いな。
 13号先生の演説を、皆が真剣に聞き入る。誰もが当たり前に持っている個性。その向く方向に寄っては、簡単に人を殺めれる力だ。先生の個性なんて、正にそうだろう。個性は管理され、正しい目的、正しい手段によって使われなければならない。管理されているおかげで、社会の調整が取れているんだろうけど、なんとなく、少しだけ息苦しさを感じる。乱してやろうなんて、思いもしないけど。

「以上!ご清聴ありがとうございました」

 パチパチと拍手が鳴り響いて、13号先生が礼をする。そんじゃあまずは……、と相澤先生が切り出した瞬間、ゾク、と悪寒が走った。空気が、嫌に冷えかえる。

「一かたまりになって動くな」
「え?」

 噴水のある広場に、黒い靄が広がっていく。溢れ出てくるのは、大勢の人間。それも、善良ではなさそうな。

「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「動くなあれは」

 先生がゴーグルを引き上げる。張り詰めた声。

「敵だ!!!」

 ヒュ、と喉の奥が鳴った。敵を見るのが初めてだとは言わない。けれど、あんな人数。特に、真ん中の、顔身体に手を付けた男。やばいでしょ。纏う雰囲気が、尋常じゃない。切島くんの、少し焦った声を聞いて、ほ、と息を吐く。パニクっていても仕方ない。

「先生、侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが……!」

 雄英のセキュリティレベルは高い。それが反応しないってことは、あの馬鹿みたいにぞろぞろ出て来る中に、妨害の出来る個性がいるんだろう。そう考えていたら轟くんが全部説明していた。それな。私も言おうと思ってた。

「バカだがアホじゃねえ。これは、何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」

 目的。わざわざプロヒーローの多くいるヒーローの学校に乗り込んでまで果たさないといけない程の。それも、雄英には今年から、不動のNo.1ヒーロー、オールマイトがいるのに。……目的が生徒の誰かか、オールマイトだったら笑えない。

「先生は!?一人で戦うんですか!?」

 相澤先生の個性は、他人の『個性』の抹消だ。例えば爆破や、凍らせるような、攻撃的な個性ではない。

「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
「先生!気休め程度だけど、」
「……ああ。13号!任せたぞ」

 背を向けた相澤先生に触れて、自分の出来る範囲で強めに個性をかける。身体能力とか、『個性』とか、諸々。あの数相手、本当に気休め程度にしかならないかもしれないけど、ないよりマシでしょ、きっと。



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