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 透の側までいくと、強化した耳が誰かの足音を拾った。透はまだ動けていないようなので、恐らくはもう1人の男の子だろう。ここらへんは氷も溶けていないから、かなり寒い。

「緩名か」
「あ、お邪魔してます〜」

 さて、困った。どうしようかなあ。彼の個性、おそらくっていうかほぼ確であの腕? だ。腕だと思ったけど口とか耳とか生えてる。しかもムキムキ。私は近接格闘には覚えがないし強くないので、わりと困っている。個性使いまくったおかげで、意識飛びそう感まである。まじジリ貧。助けてましらお。

「とりあえず氷……っと、」
「轟がやられたのか」
「尾白くんの、おかげで、ねっ!」

 遠目に見える透の氷だけを溶かせば、へろへろの感謝と謝罪が無線を通して聞こえる。しばらく動かないように。安静にしてなさい。ひょいひょいと伸びてくる複数の腕をなんとか避けて、距離を取ろうとする。くそ〜! デバフかけて〜! でも今個性使ったらぶっ倒れてそれどころじゃなくなる。私に出来るのは核に近付かせないように時間稼ぎくらいだ。

「近接苦手なの〜! 見逃して〜」
「敵前で命乞いをするな」
「今はヴィランチームだから! いいの! きゃー!」

 するっ、と手首を捕まえられて、悲鳴を上げた。くるりと確保テープを巻かれる。時間稼ぎにすらならなかった。いや、秒は稼げたから感謝してほしいな。
 背の高い少年が核のある部屋に走っていくのを見て、フラフラになりながら透に近付いた。透は存在を気付かれてないから、確保テープが巻かれていない。あれ、私これ回復していいやつ?

「ヴィランチーム、WIN!」

 そう思ったと同時に、私たちのチームの勝利が宣言されて、ほっ、とため息が出た。制限時間が来たのだろう。

「おつかれえ、大丈夫?」
「足がひりひりするよ〜! でも勝ててよかった!」
「治癒するね〜。足どこ?」
「ここ!」
「いや見えなくてうける」

 おそらく指を指してくれているんだろうけど、なにせ透明なもので分かんない。服着なさいよ。腕を広げながら寒くない? と聞くと寒い〜! と抱き着いてきた。愛いやつ〜。じゅわじゅわとあたりの氷が溶けていく。轟くんかな? それでも寒い。具合悪!

「個性使いすぎてげろはきそう」
「わっ! 磨ちゃん顔色やばいよ!」
「透も身体冷たくてやばいよ〜」
「緩名さん! 葉隠さん! 大丈夫!?」

 透と体温を分け合って温めあっていたら、核を置いた部屋から尾白くんが飛び出てきた。後ろには苦い顔をした轟くんと。

「名前なんだっけ」
「障子だ」
「そう! 障子くん。よろしくね〜」

 顔色が青いが大丈夫か? と聞かれた。大丈夫ではない。尾白くんが道着のようなコスを脱いで私と透を覆ってくれる。これしかなくてごめんって、えっ、ましらお、いいやつ〜。勝利うぇーい、と尾白くんに握り拳を差し出すと、コツン、と合わせてくれた。

「個性使いすぎてゲロ疲れた、も〜動けない」
「救護ロボ呼ぶか?」
「それはだいじょぶ。透大丈夫?」
「私も大丈夫! 磨のおかげでなんともないよ」
「障子くんおんぶして〜」
「構わないが……」

 手袋とブーツを付けた透に尾白くんの道着を着せて、障子くんに両手を伸ばした。障子くんは6つの腕で抱え込んでくれる。えっ超ぬくい。

「安定感やばいんだけど! 透も来る?」
「えっいくいく!」
「おねがい障子くん〜!」

 頼むと2人まとめてモニタールームまで運んでくれる。優し〜。尾白くんは誘ったけど遠慮していた。モニタールームに着くと微笑ましいような微妙な顔をして出迎えられた。峰田くんだけ血涙を流して障子くんを見ていたけど、下心のなさじゃないかな。



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