121



「おっ」
「あっ! 磨ちゃん!」
「おお、緩名!」
「やほ〜おつ〜」

 ミスコン終わり、出演者控え室を出ると、A組が固まっていた。出待ちしてくれていたらしい。エリちゃんと先生と通形先輩もいる。やあやあと片手を上げて重役出勤の社長のように横柄に歩いていくと、一斉に気の抜けたような顔をされる。え? ド失礼。

「ハ? 喧嘩売ってる?」
「なんでだよ」
「いや、みんな揃って舐めた目してくるから……」
「さっきとのギャップに戸惑ってんの」
「ああ、そういうね」

 近くにいた瀬呂くんに絡むと、余計にふやっとしたムードが拡がる。けろけろとかわいいわ、と笑ってくれる梅雨ちゃんと頬を染めて微笑みかけてくれる百くらいだ。

「かわいいっしょ」
「オー、めちゃくちゃね」
「かわいいは?」
「……カワイイっす」
「よし」
「あ、またカツアゲ始まんぞこれ」

 ガチでかわいいと思ってくれているみたいで、照れたように頬をかく瀬呂くんを皮切りにかわいいカツアゲを始めた。かわいいだろが。

「存分に褒めていいよ」
「おねえちゃん、かわいい……」
「エリちゃん! ラブ。キスしちゃお」
「コラコラ、やめなさいて」

 通形先輩からエリちゃんを受け取ろうとして難しかったので、エリちゃんを抱っこしてる通形先輩ごとぎゅっと抱き締める。かわいい。あ、写真撮ってもらお。

「ねえ写真撮って〜。スマホ準備室なの」
「はいはい」
「役得なんだよね!」
「きらきらがふわーってなってね、おねえちゃんがキレイで、ドキドキしたの」
「嬉しい」
「ろーずくいーんになれる?」
「うーん、それはどうかなあ」
「ローズクイーンってなんだ」
「緩名さんの貸したゲームの、文化祭の優勝者みたいですよ、どうも」

 首を傾げる先生に、通形先輩が説明している。今の私では微妙にパラメーター上げが足りてないかもしれない。エリちゃんのふくふくしたほっぺとサラサラの髪をいっぱい撫でて、身体を離した。満足。

「でも緩名さん、本当に綺麗だったよ! もう俺腰抜かすかと思ったよね!」
「やった〜ざす」
「適当だ!」

 いや、喜んでる喜んでる。

「実際腰抜かしてる人とかいたよなー」
「あと呼吸止めてる人な」
「ああ、あれそうだったんだ」

 途中で聞こえたいくつかの音の正体はそれだったらしい。

「どうだった? ずっと伏し目してたからあんま反応分かんなかったんだよねえ」
「伏し目て」
「綺麗だったぞ」
「緩名じゃないのかと思ったよなー!」
「ああ、普段とは全くの別人だったな」
「あんな儚くて天使みたいだったのにこれだもんな」

 あ、やっぱこれdisだ。障子くん以外褒めてくれないんだけど。泣き喚くぞ。

「もう障子くん以外知らん」
「うそうそ、マジですげぇ綺麗だったぜ!」
「かわいいかわいい」
「美少女美少女」
「磨ちゃん世界一!」
「腹立つ……」
「はいピース」
「でもポーズはちゃんとすんのな」

 障子くんにくっつくと、少し戸惑ってから、ゆっくりと抱き上げられた。ドレスだからかな。太い首に腕を回して、適当な煽てられ方にふんっ、と頬を膨らます。褒めろ、もっと褒めろ。語彙の限りを尽くせ。カメラを向けられたらポーズは取ります。プロなので。
 どうやらみんな各々の目的ごとにグループに分かれて文化祭を回るみたいだ。私どうしよっかな。とりあえずまずは着替えないと。スリスリと障子くんの手を撫でながら、なんか行きたいとこあるかなー、と悩んでいたら、斜め下からじっ、と視線を感じた。

「キラキラしているな」
「ん? アイシャドウかな。めちゃかわいくない?」
「ああ、かわいい。似合ってる」
「障子くんいっぱい褒めてくれるから好き……結婚する……」
「……あまり男にそういうことを言うな」
「え、ごめんいやだった?」
「いやじゃないからだ」
「んん」

 いやじゃないならいいじゃん、って思うけどダメらしい。本気にしちゃう? 障子くんならアリ。優しいし筋肉バキバキだし。でも障子くんがダメっていうならダメなんだろう。

「あんま言わないようにする」
「そうしてくれ。……綺麗だ」
「ふふ、くすぐったいね」

 ゆるく巻かれた髪をひと房、障子くんが掬いあげる。そんな、目を見て言われたら照れてしまう。照れ隠しに笑うと、マスクの向こうで障子くんも笑ったのが分かった。

「ヂッ!」
「え、こわあ、なに……」
「うっせぇ! オイラの前でイチャイチャすんな! オイラともしてくれよ!」
「こわいこわい」

 盛大な峰田くんの舌打ちが割って入る。女体への執念まじで怖い。血涙を流しそうな勢いだ。そんな言うならスタイル以外も褒めて欲しいよね、おこぷんだ。障子くんが優しく地面に下ろしてくれて、ふいぃ、と身体を伸ばした。肩バキッて鳴った。こわ。

「ババァかよ」
「肩ぐらい鳴るでしょ〜」
「俺ァ鳴らねェ」
「それは嘘」

 爆豪くんに絡まれる。関節めっちゃ鳴るよね? 肩の凝るドレス着てるから余計にだ。スカートの裾を掴んで、ひら、と靡かせる。爆豪くんが、僅かに目を見開いた。

「ど?」
「……フツー」
「もー! あまのじゃくめ」
「るっせ。……まァ、いつもの間抜け面よりはマシなんじゃねーの」
「かわいいってこと?」
「ンなこと言ってねェ」
「かわいいってことか」
「……勝手に解釈しとけや」
「かっちゃんからかわいいいただきましたー!」 
「言ってねェだろがァ!」

 ほぼ言ったようなものじゃんね。シャンパンの入ったホストのように声を上げると、やんややんやと賑やかしが湧く。上鳴くんに集中的にキレてる爆豪くんおもしれ〜。ガァッ、と吠えている爆豪くんにケラケラ笑って、腕を引っ張た。抱きつくように組むと、透がスマホを構えて連写してくれる。文化祭のおもひで、大事。

「おわあ」
「誰の許可得て撮っとんだ」
「とか言いつつ〜」
「爆豪ノリノリじゃん」
「ア゙ァ?」

 ガシッ、と頭を掴まれて、爆豪くんがカメラに向けて中指を立てる。本当にノリノリだ。文化祭マジック?

「わっ」

 ガオー、と両手を構えていると、爆豪くんとくっついているのとは反対から肩を抱き寄せられた。視線をやると片手にインカメでスマホを構えている轟くんが。が、めちゃくちゃ焦点がブレている。自撮り上達しないろきくん。

「轟くん」
「俺とも撮ってくれ」
「今俺が撮ってンだろ! マナー守れや舐めプ野郎!」
「お、悪ィ。そんな緩名と撮りたかったのか」
「……撮りたかねーわ!!」

 ぷんぷんしながら爆豪くんが背を向けた。切島くんや瀬呂くん達にからかわれながら宥められている。私は計算でするけど、轟くんのこういうとこ、天然だから余計にずるさあるよね。

「緩名、すげぇ綺麗だった」
「あ、ありがとう」
「なんか……アレだ、女神かと思った」
「わあ」

 口説かれてんのか? これは天然、他意はない。そう言い聞かせないとたまに勘違いしそうになる。轟くん私のことめっちゃ好きだな〜とは思うけど、好きにも種類があるからね。

「綺麗に撮れそ?」
「ああ。……けどやっぱ、実物の緩名の方が綺麗だな」

 他意はない。



PREVNEXT

- ナノ -