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 轟くんの誘惑タイムからのクラス撮影会をしていると、磨ー、と三奈からお呼び出しがかかった。

「衣装着替えるでしょ? アタシ付き合うよ」
「んー行く〜」

 流石にドレスでは動き回れないので。レンタルだから汚したりしたら怖いしね。三奈はどうやら制服を私の準備室に置いているらしい。準備万端じゃん。それから心霊迷宮行くんだって。怖いのか〜……と思うけど、心操くんは見に行きたいな。あとチーズハットグあるらしいし食べたい。今風〜。

「あ、一佳だ」
「お、磨」

 一人一部屋用意された準備室は、一佳とお隣さんだ。ちょうどそこから着替え終えて出てきた一佳と鉢合った。B組の人がいっぱい居る。A組も仲良いけど、B組もめちゃくちゃ仲良いよね。

「磨サン! ワタシとても感動シマシタ……!」
「ポニーちゃ〜ん」

 ガシッ、とポニーちゃんと抱き合う。かわいい〜。B組の女の子と三奈と写真を撮ってキャッキャしてると、いつもならうるさいぐらい絡まれる物間くんが何やら静かなのに気付く。お腹でも壊した? 視線をやると、どうやらこっちを見ていたようでバッチリと目が合った。瞬間、火のついたように赤くなる顔。ははーん、これは。

「物間くん、私に惚れたな」
「なッッ!?!?」
「あれ、まじだった?」
「そっとしといてやってくれ……」

 ポン、と一佳の手が肩に乗る。B組の人達、みんな微笑ましいような目で物間くんを見ている。いつも呆れられているから、珍しい視線だ。にしても、ちょっとからかっただけだけどマジだったか。申し訳ないことしたな。隣で三奈がキャー、と小さくワクワクしている。恋愛事、フルスロットル、三奈。

「そんっなわけないだろ!? 君は本ッ当に自意識過剰だね! 自信があって羨ましいかぎりさ! これだからA組は……!」
「あ、結局そこに帰結すんのね」

 物間くん、ブレね〜。う〜ん、恋愛感情、とかではなさそうなんだけど、なんだろう。物間くんに近付いて、ズイ、と下から迫ると、私が近付いた分だけ後ずさるからちょっと楽しくなってきた。いいよね、こういうの。青春。

「磨アレ楽しんでるでしょ」
「磨はああいう子だからね〜!」
「芦戸もハシャいでんな……」
「物間羨ましい……!」
「う、」

 トンッ、と物間くんが壁にぶつかった。逃げれないように両手で囲いを作る。壁ドンだ。流石に物間くんの両脇に手を付くと、自分より肩幅が広いせいでちょっと腕が変な感じする。おお! と背後で歓声が上がった。パシャ、と響いたシャッター音。誰だ今撮ったの。後で送ってね。

「きっ君さァ……! 本当に慎みとかないのかい!? 近過ぎるんだよねえいつもいつも!」
「うるせえ口だな、キスすんぞ」
「ハア!?」
「なにアレ」
「スパダリごっこ。A組でちょっと前に流行ったんだよねー」
「なにしてんだA組」
「スパダリィとはナニですか?」

 ポニーちゃんが異文化を学んでいるのをBGMに、物間くんをいじめる。かわい〜。顔真っ赤で汗まで浮いてきている。かわいい。ジッ、と見つめると、一瞬魂を抜かれたかのように身惚れられた。ははん、なるほどね。

「私の顔そんなにかわいい?」

 物間くん、ラブとか恋愛とかじゃなくて、今の私の顔が豪速球どストレートにタイプなようだ。まあかわいいもんな。自分で言うなって? ポジティブの天才だから許されると思うの。ハァン、分かっちゃった。名探偵磨。ひらめきの天才。微笑みの爆弾。

「……ッ! ……悪いかい!?」
「ええ、や、別に悪かないけど。むしろありがとうだけど」

 率直に尋ねると開き直られた。一佳がヤレヤレと頭を降っている。古泉か?

「君みたいな悪魔がそんな美し……っ、とにかく! 僕が君みたいな性悪に惚れるわけないだろう!?」
「性悪て」

 私ほど慈愛に満ち溢れた人間も珍しいと自負しているのに。女神ぞ?

「知ってるかい!? 悪魔は最初可憐な少女のフリをして人を騙しに来るんだってさ!」
「映画か哲学の話してる?」
「バーカ!!」
「バーカて」
「子どもか」

 スッと私の腕から抜け出た物間くんが、謎の高笑いをしながら走り去って行った。流石ヒーロー科、足速いね。にしても面白いものを見た。

「いいネタ入ったな〜」
「……今回ばかりは物間に同情するよ」
「物間の言ってたこと、あながち間違いじゃねェかもな……」

 ニヤニヤすると、一佳に呆れられ鉄哲くんに悪魔認定された。誰が悪魔だ。



「あっうそ、緩名さんいる……」
「えっどこどこ……ガチじゃん!」
「緩名さん……! ミスコン見ました!」
「やっぱり今日は一段と綺麗だな……」

 時間は有限、文化祭も有限。さっさと着替えて、三奈と腕を組んで誰かと合流しようと歩いていると、いたるところから声をかけられた。校内で声をかけられることはまあまああるんだけど、今日は異常なぐらいだ。手を振ると、キャー! と飛び上がる上級生男子のグループ。歓声がかわいい。男子高校生のノリかわいくてウケる。

「磨モテモテだねえ」
「ありがたいけどちょっと困る」
「ミスコンブーストヤバいよね」
「ほんそれ」

 文化祭効果にミスコンブーストがかかって凄いことになってる。でも出店ゾーンを歩くと、かなりの差し入れをいただいた。貢物ともいう。最高。

「チーズハットグやった〜!」
「アタシ食べたことなーい!」
「食べきれないし持ち帰って食べよ」
「お、芦戸に緩名! ……すげえ荷物だなー」
「あ、切島くん達だ。やほ〜」

 アスレチックゾーンを通りがかると、切島くん、瀬呂くん、尾白くん、障子くんがいた。爆豪くんはアスレチックにチャレンジして、新記録を出している。やっぱすげえよミカは。

「相変わらず貢がれてんなー」
「むっ、プレゼントと言いなさい」
「持つか?」
「ありがと障子くん、ラブ」

 他にもいろいろともらった。貢がれ女王とは私のことかもしれない。唐揚げ、フライドポテト、肉巻きおにぎり、カラフルなチョコバナナ、揚げアイス。揚げアイスは早めに食べたいよね。

「誰か揚げアイス半分こしない?」
「食う食う」
「アイスを揚げるのか?」
「そうそう、俺中学の時やったよ」
「芦戸のすげぇなそれ」
「めっちゃ伸びるー!」

 揚げアイスを半分こに切って瀬呂くんに渡す。一口で食べれるのすご。口の中パニックなるから私はちまちま食べるけどね。シナモンめっちゃかかってて草。隣を見ると、三奈が伸びすぎるチーズハットグのチーズに苦戦していた。分かる〜。なんでこんな伸びんだろうね。貰い物だし好きに食べていいよ、と差し出すと、いの一番に肉系がなくなっていくのが面白い。男の子だな〜って感じする。

「ア゙? なんでいんだ」
「あ、爆豪くん。おかえり〜……あっ」
「シナモンかけすぎだろこれ」
「私が食べてたのに〜」

 3分の1ほどになった揚げアイスを、帰ってきた爆豪くんがひょいっと攫って行った。河川敷のトンビみたいなことすんじゃん。口の中があったか冷たやっぱり冷たいので、唐揚げでお茶を濁す。甘いとしょっぱい交互が一番やっぱキまるよね。ア、と口を開ける爆豪くんの口の中にも突っ込んでおいた。なんていうかほんと、懐かないボス猫を飼い慣らした気分。



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