addio
18

「雛乃、さん!」

「…つなよし君」

なんだか様子がおかしい。いままでこんなに取り乱したつなよし君は見たことがない。

「来てください!」

「…え?」

「急いでください!雲雀さんが、雲雀さんの容態が…!」

青ざめたまま私の腕をひいたつなよし君はまくし立てるように叫んだ。恭弥がどうしたというのだろう。容態は落ち着いていると聞いたのに。心臓が忙しなく動いた。つなよし君のその様子に、頭の中で何かわかりかけている。けれど、気持ちがその何かを否定した。考えたくないと、そんなことがあるわけがないと、“最悪の事態”を淡々と想像し続ける思考を否定する。


「どこに、いくの…?」

恭弥の病室とは違う方向だった。私の言葉に、走り続けるつなよし君の、私の腕を掴んだままの手にギリリと力がこもる。

「……集中治療室です」

つなよし君の声は固かった。自分を押し込めようとするような、平坦な声。

「なん、で」

「あとできちんと説明します。…今は、走ってください」

つなよし君の手にはますます力がこもった。関節が軋む音がする。でも私は何も言わなかった。私のネガティブな想像を否定してくれるこの痛みが、今はとても有り難かったから。
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