dream | ナノ


act.033

新学期は、慌ただしく始まりを告げた

ジョージが花火を忘れ、フレッドが箒を忘れ、ジニーが日記を忘れ
どうにか駅に辿り着いたかと思うと、ハリーとロンは案の定ホグワーツ特急に乗り損ね
空飛ぶ車でホグワーツに登校したおかげで退校処分になりかけた

そして今日の朝
おばさまから吼えメールが届いたおかげで、今にも死にそうな顔をしている

「全く、新学期2日目なのにまるで試験直前みたいな顔してるね」

「試験のほうがまだマシだったよ、なんなら君も同乗したかった?」

「こぼしてるよ、ロン」

ハッフルパフとの合同授業と変身術を終え、昼食を食べながらもロンは悪態をついた

空飛ぶ車で暴れ柳に突っ込んだせいで、ロンの杖は折れてしまったらしく
満足に魔法を使えない事に苛々していた

「午後のクラスはなんだっけ?」

「闇の魔術に対する防衛術よ」

ロンの態度を見て、慌ててハリーが話題を変えると
ハーマイオニーがものすごい早さで答えた

「君、ロックハートの授業を全部小さいハートで囲んであるけど、どうして?」

「か、返してよ!」

ロンがハーマイオニーの時間割を取り上げたが、彼女は顔を真っ赤にしてそれを引ったくり返した


昼食を終え、次の授業までは時間もあったので
天気は良くなかったが、4人で中庭に出た

ハーマイオニーは相変わらず、ロックハートの"バンパイアとバッチリ船旅"に夢中のようで
石段に座り込むと、本を開いて動かなくなった

「ロン、この間見てたキャノンズのユニフォームって、結局幾らだったの?」

「なんだよ、僕の誕生日ならまだまだ先だけど」

「その卑屈な態度を改めてくれたら、考えてあげるよ?」

「名前、僕が悪かったよ!」

「素直でよろしい」

3人でクィディッチの話をしていると、すぐ横にいた少年がハリーに熱い眼差しを向けていた

ハリーがそちらを見ると、少年は顔を真っ赤にして口を開いた

「ハリー、元気?僕、僕、コリン・クリービーと言います」

コリンは少し息を吸い込むと、カメラを持ち上げた

ハリーの事ならなんでも知ってるということ
ハリーに会った事を証明する為に写真を撮らせて欲しいこと
マグルの両親に写真を送りたいということ

彼は早口でそう言い切ると、熱っぽい眼差しでハリーを見た

「貴方の友達に撮ってもらえるなら、僕が貴方と並んで立ってもいいですか?それから、写真にサインしてくれますか?」

「サイン入り写真?ポッター、君はサイン入り写真を配ってるのかい?」

ドラコの声が、中庭に大きく響いた

声を聞きつけて、ハリーをからかうチャンスだと思ったのだろう
いつもの様にクラッブとゴイルを引き連れて、コリンのすぐ後ろで立ち止まった

「皆、並べよ!ハリー・ポッターがサイン入り写真を配るそうだ!」

「僕はそんなことしてない。マルフォイ、黙れ!」

周りにいる生徒にドラコが大声で呼び掛けたので、ハリーはたまらず怒った

「君、やきもち妬いてるんだ」

「何を?僕はありがたいことに、額の真ん中に醜い傷なんか必要ないね。頭をかち割られる事で特別な人間になるなんて、僕はそう思わないのでね」

コリンの言葉に、ドラコは薄ら笑みを浮かべて答えた
もう中庭にいた生徒の半分が、耳を傾けていたので、大きな声は必要ないようだ

「ナメクジでも食らえ、マルフォイ」

「……言葉に気を付けるんだね、ウィーズリー。これ以上いざこざを起こしたら、君のママがお迎えにきて、学校から連れて帰るよ」

ロンが発した挑発の言葉に、ドラコが反応した
今にも折れた杖を取り出して、本当にナメクジを食らわせそうだ

「……自分がされて嫌な事は他人にしない方が賢明だと思うけど?」

私はドラコに向かって、そう投げ掛けた
それを聞いた彼は、眉間にシワを寄せてこちらを睨み付けた

「それは、僕に言っているのかい」

「貴方以外にいたかな。嫌がらせばっかり、それ楽しいの?」

「ああ、楽しいよ!見てみろよ、君のお友達の顔をね」


ハリーもロンも、ドラコを見て明らかに怒っている
ハーマイオニーだって、読みかけの本を閉じて、心配そうにこちらを見てる

私は一歩前に進んで、ドラコの耳元で囁いた

「じゃ、先日のお父様のお姿、学校中にバラしても問題ないよね?」

「なっ……!」

「やられて嫌な事、しない方が身の為だよ」

先日の取っ組み合いだって、脅しの材料にさせて貰うよ

ルシウスさんをネタにするのは良い気持ちはしないが、これで大人しくなるのなら幾らでも使わせてもらおう

「此処の理事の1人だし、名前に傷どころじゃないよね」

「お前……!」

ドラコは慌てて私から距離をとると、改めてこちらを睨み付けてきた

「一体何事かな?一体どうしたかな?」

サイン入り写真に反応したのか、どこからともなくロックハートが現れ
直ぐに午後の授業を告げるベルが鳴り、生徒は慌ただしく城へと戻っていった



* * *



闇の魔術に対する防衛術は、歴代最悪だと思った

謎のロックハートテストは授業に全く関係の無い内容だったし
ウインクばかりする教師に、女子はうっとり、男子はげんなりとしていた

「捕らえたばかりのコーンウォール地方のピクシー小妖精!」

ようやく始まったかと思えば、大きな籠の中にはピクシー小妖精
たまらずにシェーマスが噴き出した

「あの、こいつらが、あの、そんなに、危険……なんですか?」

「思い込みはいけません!」

笑いを殺すのに必死だったシェーマスを窘めるように、ロックハートは指を振った
自意識過剰にもほどがある

「連中は厄介で危険な小悪魔になりますぞ!」

ピクシー小妖精は身の丈20cmくらいで、身体は群青色
キーキー甲高い声で喋るので、まるでインコの群れが議論しているような騒ぎだ

「さあ!それでは!君達がピクシーをどう扱うかやってみましょう!」

ロックハートは大した説明もせずに、籠の戸を開けた

―――教室は地獄絵図

あちこちに飛び散ったピクシーは大暴れ
窓ガラスを突き破り、インク瓶で教室を汚し、壁にもゴミ箱にもロックハートの写真にも悪戯をした
対応する術を知らないので、生徒の半分は机の下に避難してしまった

「さあ、さあ、捕まえなさい。捕まえなさいよ。たかがピクシーでしょう?」

「先生、何匹ですか?」

「え?」

「籠にいたピクシーの数です」

「さ、さあ……生徒の数はいたと思いますが」

……本当に役立たず
教材の数も不確からしい、流石インチキ教師
私が溜息を吐くと、それを聞いたロックハートは腕まくりをして杖を振り上げた

「ペスキピクシペステルノミ!ピクシー虫よ去れ!」

……呪文を叫ぶが、何も起きない

ピクシーに杖を奪われたロックハートは、小さな悲鳴をあげて自分の机の下に潜り込んだ

「本当、最悪の授業かも」

私は諦めて自分の杖を抜いた
とりあえずピクシーを集めない事には、いちいち呪文をかけるのも面倒だ

鞄を手繰り寄せ、持っていたビスケットを取り出すとそれを机へ放り投げる

「集合ー!」

お菓子の匂いに誘われ、あちこちに散らばっていた妖精が一斉に集まってきた

キーキーと鳴きながら、数枚のビスケットを取り合っている

「ステューピファイ 麻痺せよ」

纏まっている位置に呪文を放つと、数十匹いたピクシーが一斉に失神した

「はい終わり。ハーマイオニー、縛り術できる?」

「え、ええ、任せて!」

ハーマイオニーが立ち上がると、ちょうど終業のベルが鳴った
逃げ出すように、生徒達が出口に詰め寄った

少し遅れてロックハートが机の下から這い出て、足早にこちらへ近付いてきた

「素晴らしい!あー、名前は?」

「ダンブルドアです」

「ああ、君が校長の!見事な杖捌きだったよ、グリフィンドールに30点あげよう!」

「……どうも」

「ついでに後片付けも頼むよ、君達でピクシーを籠に戻しておいてくれたまえ!」

その言葉に、ハリーとロンが不愉快そうな顔をした
こんなに教室を散らかした原因は、ロックハート自身だ

「後片付けはしておきますから、後で彼らの数をしっかりと確認しておいて下さいね?大事な教材ですから。先生なら、当然おやりになりますよね」

聞いているのかいないのか、ロックハートはそそくさと私達の横をすり抜けて退室した

「耳を疑うぜ」

ロックハートの言葉に、ロンがそう言った
悪態をつく気持ちは、よく分かる

「私達に体験学習をさせたかっただけよ」

「体験だって?ハーマイオニー、ロックハートなんて自分のやっていることが自分で全然分かってなかったんだよ」

ハリーはピクシーを拾い上げると籠に戻しながら、ハーマイオニーに話しかけた

「違うわ、彼の本を読んだでしょ……彼って、あんなに目の覚めるようなことをやってるじゃない」

「ご本人はやったとおっしゃいますがね」


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