dream | ナノ



prologue.000C opening!


一週間前にイギリスに落っこちてきて……そこからが地獄だった

分厚い本の山に囲まれて、扱いにくい羽根ペンとくるくるクセの付いた羊皮紙に悪戦苦闘し、受験勉強ばりに机と本に向かっていた
地獄の中の地獄、興味の薄いものを頭に詰め込む作業は本当に辛かった

私達3人がこの世界に詳しいのは、小説にある表面上のものだけ

ダンブルドアのじーちゃんのお力と、Bのスパルタで
たった一週間で、魔法界での必要最低限の知識やら文化やら習慣やらを叩き込んだ

本日、9月1日―――始業式

どうにか5年生に編入することとなり
ただいま、大広間へ移動中



「あああー久しぶりに本を読まない生活が戻ってきたー!」

腕をぐるぐると回して、固まった筋肉をほぐす様な動きをしながら
つま先はしっかりと、大広間を目指して廊下を蹴る

ホグワーツの中を歩くのも、久々な感じがしてしまう

「なんとか始業式に間に合ったね」

「2人の飲み込みの悪さに、一時はどうなるかと思ったわ」

「あーあーきこえなーい!」

「な、何はともあれ、今日からスクールライフだよ!ホグワーツの!」

勉強や暗記、記憶が得意なBの手厳しい発言に
Aと一緒になって話を盛大に逸らそうとする

もうしばらく勉強なんてしたくないのが本音だけど
明日から本格的に授業が始まることを考えると、頭痛がしそう

「どこの寮になるかな……」

「絶対スリザリンがいい断固としてスリザリンがいい異論は認めない」

私はハリーポッターと賢者の石を初めて読んだときから、スリザリンが大好きだ
どんどん生意気に育っていくハリーを、どこか自分と重ねて、同族嫌悪していたのかもしれないけど
自然と彼とは逆の、スリザリン側の人間に興味を惹かれていた

「私は……多分レイブンクローね」

「頭良いからね、##NAME2##ちゃん。私はきっとハッフルパフだなぁ」

うんうん、2人の言ってることはなんとなく分かる

Bは確かに賢いしクールで、レイブンクローがピッタリだ
Aは、気遣いが出来て優しい、ハッフルパフになりそうなのも分かる

「グリフィンドールの選択肢はないの?」

「この3人に限ってそれは無さそうだよね」

「それだけはぜーったい!お断りします!」

なんて、互いがどの寮に組み分けされるか話しながら薄暗い石の階段を上がる




大広間に通されると、既に新入生の組み分けは終わってしまったようだった
私達は新入生とは別のルートで広間へ通されたので、全校生徒の視線を浴びる形になっている

すごい、生徒ってこんなにいるんだ


「今年は編入生を迎えることとなった」


ダンブルドアの声が大広間に響き、入っておいでと言うように手招かれる
職員席の前に置かれた組み分け帽子を目掛けて、真ん中の通路を小走りで進む

ざわざわと生徒達が耳打ちしながら小さな声でヒソヒソ話をする間を抜ける
ちょっとした緊張で、目先のそれしか視界に入らなくなってしまう

視界の先のくたびれた布きれが、なにやらもぞもぞと動く
……あれが噂の組み分け帽子らしい、想像以上にボロボロだ


羊皮紙の巻を掲げたマグゴナガル先生が、Aの名前を呼ぶ

「はいっ…!」

壇上に上がってAが椅子に着席すると、古びた帽子を頭に乗せられる

途端、帽子があーでもないこーでもないとぶつぶつ呻く
完全に頭の上の帽子は自分の世界に入っており、彼女の話を聞いているように見えない

しばらくうんうんと呻ると

「グリフィンドール!」

しゃがれた声が、大広間に反響した

同時に、獅子の旗の置かれたテーブルからわっと歓声が上がる
Aも、不可思議そうな表情で首を傾げながら、歓声の先へ足を向けた

「意外ッ!それは組み分けッ!」

全員一致でそれはないよね、と言っていたグリフィンドール
勇猛果敢を掲げる寮にAが選ばれ、思わず冗談が口から飛び出す

「Aがグリフィンドールね……確かに意外」

「寮ばらばらの予感がする」

そしてすぐに、ざわつく大広間の声をかき消すようにBの名前が読み上げられる

「はい」

凛と伸びた背筋に揺れる髪……THE!日本人・大和撫子な彼女の佇まいに、大広間もしんと静まり返ってしまう

Bが古い木製の椅子に腰掛けると、ぎしりとそれが軋む
頭に乗せられようとしていた帽子が、もぞもぞと動く

「グリフィンドール!」

Bの髪に帽子が触れる直前に、そう叫んだ

AもBも、グリフィンドール……

私だけスリザリンかー
でもきっと周りの目が痛かろうと、私達は友達だしね!
スリザリンとグリフィンドールは合同授業も多いし大丈夫!

そして最後は私

ぎしぎしと不安な音を奏でる椅子に腰掛けると、古びた帽子が頭にのせられる
またもぞもぞと口のような皺を動かしていて、落ちないか心配になる

「やあ帽子くん元気?私をスリザリンに」




「グリフィンドール!」




時が止まった、ような気がした



頭の上から発せられたその言葉の意味を理解する頃には、私は机に突っ伏して泣いていた

少し顔を上げると晩餐が始まっているのが確認できた
テーブルのあちこちで食器のぶつかる音や、賑やかな話し声が聞こえてくる

―――あいつ……次見つけたら絶対に燃やしてやる

伝統なんか知るか、皆好きな寮で勉強すればいいじゃん…
なんで私がスリザリン以外の寮に入らなければいけないんですか神よ!
あー折角秘密の部屋探索とかじめじめした地下の寮をからっからにしてみたりしたかったのに



「この世に神も仏もいやしねえ!」

涙は頬を伝うが……これは悔し涙だ!

「Aちゃん泣かないでよー、でも3人一緒の寮だよ?」

「諦めなさい、これは天命よ」

「ううっ、そんな天命燃やしてやる……」

AとBが泣き続ける私を慰めようと、言葉を掛けてくれる

さっさと引っ込められた帽子に恨みをこめ、しばらく火を放つ魔法の練習をしようと心に誓い
とりあえず3人がバラバラの寮にならなかったことを喜ぼうと思った

組み分けの事は一旦忘れて、顔を上げる


「いやー!グリフィンドールもラッキーだよね!類い稀なる編入生、しかも東洋の!まさか3人ともだなんて!」


くしゃくしゃの髪をした少年が、膝を叩いて大笑いしていた
フォークに刺さった牛肉を頬張りながら、楽しそうに言う

それを合図に、堰を切ったかのように周りの生徒達が声を張る

東洋ってどこの国?
3人は知り合い?友達なの?
どうしてこの時期に編入?
好きなタイプは?
興味のあることって?
今度ホグズミードへ一緒に行かない?
来週の休みは一緒に遊ばない?

ぽかんとしている私達にはお構いなしに質問をぶつけてくる
元気のいい学生達の質問攻めに、AもBもたじろいでいる

「ほんとスリザリンなんかじゃなく、グリフィンドールで良かったよね!」

「……そんな事言うのはこの口か?え?おい」

身を乗り出して、ふざけたお話をべらべらしてらっしゃるヤツの頬を掴んだ
握力の限り力を込めて頬を鷲掴みにしたせいか、変な顔で何か呻き始める

「いっ!いふぁい!いふぁいおー!」

「何言ってるかわかんないなー!英語って難しいネ!」

「いふぁー!」

「君にもう少しデリカシーというものが1ミクロンでも残っていたら、もーうちょっとは聞き取れたかもヨ!」

途端、2種類の腕が私を抑える

「Cちゃんストップー!」

「その辺にしといてあげなさいよ」

2人に静止されて、腕の力を緩める
くしゃくしゃ頭はぜーぜーと肩で息をして、顔色が変だった

「あ、あはは、初めてだよ初対面のレディにこんなに嫌われたのは……」

「黙れその貧相な人語と牛肉の獣臭とグレービーソースの匂いしか吐き出せないっどーしようもない口を閉じろ今すぐ閉じろ消えてなくなれむしろもう呼吸すんな地球上の生物全てに必要な酸素がもったいないわ酸素吸ってすいませんって全人類と生物全てに謝罪しながら土下座行脚しろ存在している事に謝罪しろそれか葉緑体見習って光合成でもして酸素生み出す練習しろよあと太陽という自然の恵みに全力で感謝して謝っとけ屑がまぁ生み出したとしてアンタの身体から生成された酸素なんて1ミクロンも体内に入れたくないがな、ということで視界に入るなよ私の瞳が腐り落ちるわ!」

凍る空気なんてお構いなしに、私が贈れる最大の悪態を
息継ぎもほどほどにして全部吐き出した

―――するとすぐ隣から、ケタケタと笑い声が聞こえてきた



next→


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -