dream | ナノ





「あっははは、ジェームズ嫌われちゃったね」

「自己紹介も無しで、レディに質問攻めじゃ嫌われるだろ」

ライトブラウンの髪をした、幸薄そうな少年と
黒髪の顔面偏差値高めの少年が、牛肉野郎を見て笑っている

「リーマス!シリウス!笑うなよ!」

「あははは、だってこんなに嫌われるなんてエバンズ以来じゃないか?」

「あそこまで言い切るやつは初めて見たけどな」

ジェームズ、リーマス、シリウス……?

「あのっ!」

「!!」

隣のテーブルに座っていた女の子が勢い良く立ち上がって声を張った
近くに座ってスイーツを頬張っていたAが、驚いてフォークを落っことした

綺麗な赤毛に、整った目鼻立ち―――まるで天使みたいだ

「ごめんなさい、皆興奮しちゃって。編入生なんて初めてだから」

「少し驚いたけど平気よ、ありがとう」

Bが彼女の謝罪をさらりと流して、Aのフォークを拾い上げた
周りの生徒は見事に窘められてしまって、何も言えなくなったようだ

まぁ確かに転校生とか編入生って珍しがるのは普通の反応だろうし
―――ホグワーツみたいな全寮制の学校なら、尚更そういう反応は強くなるだろうけど

彼女はきらきらと瞳を輝かせて、私の方を見た

「それにしても良く言ってくれたわ、私なんだかすっきりしちゃった!」

「ひ、酷いよリリー!そんな事言わないでくれよ!」

「うるっさいわね!アンタなんか大嫌いよ!話しかけないで!後ファーストネーム呼ばないで!」

リリー、と呼ばれた彼女は、鬼の形相で声を張り上げる
可愛い笑顔が台無しだよリリー

……ん?リリー?

くしゃくしゃ牛肉野郎が、ジェームズ・ポッター
やや幸薄そうな美少年が、リーマス・ルーピン
顔面偏差値高得点少年が、シリウス・ブラック
それからこの超絶天使が、リリー・エバンズ


親世代ビンゴー!揃っちゃってるー!

スリザリンに入る気まんまんだったので、編入早々、親世代仲良し組に遭遇したことに驚く

1975年といえば、彼らが丁度5年生に進級する年
だから私はちょっと強引に5年生への編入を申し込んだのだ

年表確認しといてよかった!
ありがとうウィ○ペディア!

「ということは……」

首が吹っ飛びそうな勢いで角度を変えて、スリザリンのテーブルを視界に入れる

―――見つけた!


「うわあああああああセブルスうううううううう!!!」


心の声が収まりきらなくて自分でもびっくりするくらいの声を出して、慌ててスリザリンのテーブルへ近寄る

「……は?」

しっとりと艶のある黒髪
高くしっかりとした鷲鼻
ちょっと血の気の無い肌
低めのテノールボイス
軽蔑するような眼差し

本物だ、本物が目の前にいる……!

「セブだ!本物だ!夢にまで見た!あああ美しいその蔑んだ瞳で私を視殺しておくれ!」

「いやまず君は誰だ」

「Cと申す!以後良しなに!」

「グリフィンドールが何のようだ」

「結婚してください!」

「……はァ?」

ぽかん、と呆れた表情でこちらを見る
半開きのお口が可愛いなぁもう!

「ああ間違ったつい心の声が漏れちゃった!てへ!まずは交換日記からよろしくお願いします!」

「断る!」

「そんな!あ、じゃあ文通から!ね!」

「なんなんだ貴様!するわけないだろ!」

「じゃあ私毎日手紙送るから!」

「人の話を聞け!」


「ペトリフィカス・トタルス 石になれ」


青い閃光が視界に入ったかと思ったら、それは私に命中した
全身金縛り呪文で、身動き一つ取れなくなってしまう

「お騒がせしました」

呪文を掛けたのはBだった

そのまま硬直した私をずるずると音を立てて引きずって、グリフィンドールのテーブルまで戻される
おニューの制服がホコリまみれです!編入一日目にしてクリーニング事案発生!



「フィニート 終われ」

「っ!おお、動く……!」

終了呪文を唱えられ、ようやく身体が自由になる
立ち上がって制服の汚れを手で落とす

「何で私に呪文を!?」

「Cちゃん落ち着いて……」

「あの勢いなら明日にでも役所に婚姻届貰いに行きかねないでしょ」

「何故分かった!」

付き合いもそこそこ長いがよくこの2人は私の思考を先読みする
今日ようやく確信した、こいつらエスパーだ!超能力者だ!

「いやさっき口で言ってたし。前からその病気患ってるの、私とBちゃんも知ってるよ」

「うっぷす、何ということだ……」

「出会い頭3秒でプロポーズする女初めて見たわよ」

「仕方ない!私セブルスいないと死んでしまう病の末期患者だから、うん仕方ない」


「ぶふぉっ!君っ、セブルスって……スネイプの事かい!?」


口を必死に抑えて笑いを堪えているポッターが、そう言う
何がそんなに面白いのか、肩を震わせてこっちを見ている

「そうですが」

「えええっ、アイツのどこに魅力があるって言うんだい?」

至って真顔でそんなことを聞くもんだから、私も真顔で返答することにした

「普段はあんなだけど優しくて努力家で一度決めたことは絶対曲げなくて一途で真面目でちょっと空気読めないけどそんなところが可愛くて愛おしくて少なくともポッターよりは紳士で男らしくて素敵だと思ってますけどあと顔面偏差値は私の中でぶっちぎり一位で不動の殿堂入りを果たしてるので私はセブルス以外に興味ないけど」

「……医務室いくかい?」

「アンタは学校中の鏡磨いて回ったほうがいいわよ、そしたら少しはマシに見えると思う」

「君ももうちょっと外見を気にしたらいいと思うよ」

「くしゃくしゃ頭を櫛で撫で付けてヘアセットのお勉強から初めてから寝言を言ったほうがいいよ」

クセっ毛がちょっとしたコンプレックスなのか、ポッターの顔色が変わる
面白くなさそうな表情でこちらを見てきた

「何なんだ君!次から次へと!」

「……ジェームズ落ち着きなよ"紳士的な"君は何処にいったんだい?」

「はっ!そうだな、僕としたことがすっかり……」

「しんし……ぶふぉっ!」

"紳士的"という言葉に思わず吹き出す
自由気ままな悪戯っこのポッターが逆立ちしたって、紳士には見えない

「っー!!!」

「もう止めろよお前ら、子供じゃないんだから」

「C、少し落ち着きなさい」

Bとブラックに制止され、ふんと互いに鼻を鳴らしてそっぽを向く
予想していた通り子供っぽくって嫌なやつだ!

喧嘩してる間に、すっかり晩餐も終わってしまったようだ

残っていた皿の上のパンを口に詰め込むが、一口で日本が恋しくなる
このもさもさした感じ……なんかこう、何か足りないというか

私の求めいているのはこれじゃない!

「おこめ食べたい……」

「ライス?うーん、学校では出たことないかも」

リリーが絶望的な発言をプレゼントしてくれた
パンを噛みしめるごとに舌が日本の味を思い出してナーバスな気分になる

1週間でホームシック

でもセブルスがいるから頑張れるよ!ふふふ



* * *



晩餐もお開きになり、はぐれないようにグリフィンドール生の後ろを着いて行く
先頭の生徒が合言葉を貴婦人に伝えると、扉が開いて後続の生徒がぞろぞろと寮に入っていく

今日から憧れの寮生活!

用意された部屋に入ると、そこは映画で見ていたような暖かく広々とした部屋が広がっていた

共同スペースの端に、数日前に買い込んだ荷物が山積みにされ
―――それから、奥にはベッドが3つ並んでいる

昨日までの夏休み期間は、別に宛がわれていた部屋を使っていたが
特殊な来歴を考慮して、編入を理由にこんな感じの3人部屋になったようだ

「うわあ、結構広いね!私は端っこ!」

「じゃ、壁側を使うわ」

「えっ、ちょっ!そこはじゃんけんでしょ!」

部屋にうっとりしていると、両端のベッドをとられてしまった
2人はふかふかのベッドに身を投げ出して、自分のスペースを確保してる

ベットを諦め、近くにあった筆記用具をひっぱり出して
テーブルに羽ペンやらレターセットをばら撒いて、準備を始めた

「さーて明日の朝一でセブルスに送る手紙を書かなくっちゃ!」

「いいなー、早速お目当ての人に出会えて」

ごろんとベッドの上で寝返りをうったAが枕を抱えてそう言う

「Aもすぐ会えるよ!C占いでは明日の君の恋愛運は☆5つだ!」

「わー、頼りになるー……」

「棒読みヤメタマエ」

ベッドキープを終えたBがテーブルに近寄ってきて
訝しげな表情で私のレターセットを摘み上げて呟いた

「……本当に書くの?これで?」

薬草の絵の付いたレターセットの何が悪い!
セブルスにピッタリだと思って買ったんですが!

「書くよ!」

「……絶対3日で飽きるに5ガリオン賭けるわ」

「じゃあ私もー」

「失礼だな!君たち失礼だな!」


そんな会話をしながら、ちょっと荷物の整理をして
編入はどうにか無事に終えることが出来た

明日から授業があると思うとげんなりしてしまうが
それ以上に、憧れのホグワーツでの生活が始まることに期待で胸いっぱいになる



あ、明日の朝一で手紙を出したらスリザリンの寮に行こ!




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今日から5年生

わくわくが始まる


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