dream | ナノ


prologue.000A Magic!



青い空に、白い雲
その隙間から差し込む太陽が、時折私を照らす

身体の後ろ半分は―――芝生かな
ちくちくと洋服の繊維の隙間から刺激される
くすぐったさを覚えながら、なんだかぼーっとする頭で空を眺めていた

ふと、黒い影が視界に増える

―――虫、とは違う

少しずつ大きくなるその空の影に、子供の頃に見た飛行機を思い出す
小さい頃は、魔法も使わずに空を自由に飛べる飛行機、蝶や鳥が羨ましくて、大好きだった

段々近づいてくるそれは、こちらに向かって落ちてきているのだと思った

ぼやけた思考のままの私は、避けるとか、移動するとか、考えていない

どんどん近づいてくるそれは、人の形をしていたので
誰だろう、なんて見当外れなことを考えながら、ただそれがやってくるのを見ていた



ぽふん



到底空から降ってきたとは思えない音を立てて、それは軽くバウンドして静止した

「人形……?」

「違いマース!」


声を上げたと思われるそれが、ころころと寝返りの応用で転がって―――私のすぐ横で止まる
こちらに向けられた表情は、酷く見覚えのあるものだった


「C、ちゃん?」

同級生、同じクラスの友人


「あー、良くわかんなかったけど、面白かった!」

「えっ、何が?」

意味が分からない

私同様に脳がしゃきっとしていないのか、ぼーっとしている
彼女の場合は、元よりこんな感じだったような気もするけど……ま、いいか

「高度何万メートルからか分からないけど、中々の絶叫だったわ」

頭の上から、声が降ってきた―――聞いたことのある、凛とした声
身体を捻って、声の先に顔を向けると、これまた見覚えのある顔があった

「おー、B!」

「点数を付けるならAが一番かもね、高所恐怖症なだけあって」

同じく友人のBちゃんが、少し先の木にもたれながら微笑んだ


「どういうこと…?」

「降ってきたのよ、私達」

「……Cちゃんみたいに?」

「私、落ちてくる2人を見たもの……Aは絶叫してる途中で気絶したのか、暫くその辺で転がってたけど」

「Aは高所恐怖症だったっけ?そりゃーあの高さなら気絶もするよー」


私も、おそらくBちゃんも、空から降ってきたらしい
さきほど自分の目の前で起こったように、人体として不自然な感じで

―――でも、その前のことがあまり思い出せない

彼女達が友人で、どんな性格で、自分がどういう人間か
住んでいた街だって、家だって思い出せる
昨日何したかも覚えてる、食べた物も寝た時間も覚えている

記憶の障害ではない

ただ、行動だけ―――抜け落ちているような感覚だった


「ね、どうしてこうなったか覚えてる?A」

「ううん、覚えてない」

「私も……多分、全員ね。落ちる前だけ覚えてないの」

ぼやけた思考の理由が少し分かったせいか、時間が経過したせいか
頭の中にかかっていた霧が晴れて、クリアになったような気がした



以前、ここがどこだかは分からないが



ふと手首に、違和感を感じる

花のモチーフのブレスレットが、ちゃり、と金具の擦れる音を立てた
中心部分は細工がされているのか、少し厚みがあるように思えた
華奢な装飾、繋ぎ目にも細かな細工が入っていて、とても可愛らしい


でも

こんなの、持ってたっけ?


「ああ、それ、全員の腕にあるのよね」

「えっ、2人も?」

そう声をかけると2人は、こちらに向かって腕を持ち上げて見せる
同じデザインのブレスレットが、全員の腕に着けられていた

私がピンク、Bちゃんがブルー、Cちゃんがイエロー

「これ、どうやって着けたのかしら」

Bちゃんの言葉に、ブレスレットを注視する

確かに、このブレスレットには繋ぎ目こそあれど、着脱用の金具が付いていなかった
華奢なデザインの中に、これを外す為の仕掛けがあるようには見えないし、手首から抜けるような隙間もない

まるで腕に合わせて誂えたようで……なんだか、気味が悪い

「で、あの城って何ー?」

Cちゃんがどこかを指差してそう言った
ブレスレットには余り興味が沸かないのか、それとも何時も通り話の腰を折っただけか分からないが

「城って?」

「後ろよ、後ろ」

2人に促されて、言われるがままに後ろを振り返る

鬱蒼と生い茂った木々、芝生、そして所々に自生する花々
大きな湖を、背の高い山々が深緑で囲っている

それを背景に、古城が聳えていた

「ず、随分と迫力のある……」


―――否、一歩間違うと廃墟に近い


ぼろぼろと今にも崩れ落ちそうな石壁を、どうにか蔦が支えているような状態で
その蔦もあちらこちらに枝を伸ばし、窓も開かなさそうだ
窓自体も割れていたり、枠が無かったりと、窓の役目を果たしているもの自体が少ない

お化け屋敷でも、もうちょっと綺麗にしてあると思うが
欧州風の古城はそれよりも更にリアリティを突き詰めたような、恐ろしげな佇まいだった

「オバケとか出そうだね!」

「やっ、やめてよ!そういうの」

洒落にならない
こういう風に噂するだけでも寄ってくるって聞いたことあるし……

「Aの苦手なモノばかりね、今日は」

「高いとこ、オバケ、あと勉強だっけ?もうちょっとでコンプリートだね!」

「さすがにこの状況で勉強はないでしょ、多分」



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