dream | ナノ



act.023


鞄を抱えて階段を降りて行くと、その途中で不可思議な顔をしたハリーとロンに遭遇した

「おはよう、どうかした?」

「……おはよう名前」

「どうかしたって?そりゃどうかするよ」

二人が朝っぱらからご機嫌斜めな原因は―――あちこちから聞こえてくるヒソヒソ話

同じ寮生でもこうしているのだ、ここから出ればもっと酷くなる
入学して数日するが、ホグワーツはこの調子だ

「あー……あれのこと?」

「ちょっと、流石に疲れてきちゃって」

「全く、ハリーの何がへんちくりんだってんだ?」

そりゃあ生きる伝説みたいなものが、同じ学校に入学してくれば
好奇心旺盛なホグワーツの生徒が放っておくわけがない

既に経験済みの私は、噂話に疲弊するハリーに同情した

「少し物珍しいだけよ、すぐ飽きるって」

「君こそおったまげだよ、ハリーといい勝負だぜ」

「慣れだよ、慣れ」

「名前って案外、根性あるよな」


ロンは肩を竦めて笑ってみせた
そんなおちゃめな彼のトークも良いけど、他にやることは沢山ある

「それより闇の魔術に対する防衛術の授業、行かないの?」

「……談話室、通りたくなくって」

ハリーは階段から談話室の方向をちらりと見ると、視線を落とした
よほど参っているのか、あまり元気が無いようにも見える

「初授業から遅刻で減点なんて、嫌でしょ?」

「……そうだよね」

「行こう、お昼と一緒にパーシーのお説教を頂くのはごめんだ」

一体パーシーに何を言われているのか、私は分からないが
ロンとハリーは顔を見合わせて大きく溜息を吐き出した


* * *


闇の魔術に対する防衛術は、とても退屈だ

ビクつくクィレル先生は窓の外で木が揺れる度に
ヒィヒィと騒いで、あまり授業は進まない

それに教室はいつでもにんにくの匂いで充満していたので
授業終わりには消臭スプレーをたくさん使わなければいけなかったので、なかなか面倒だった

「そ、それでは、前回の、レ、レポートを、提出してください」

私は出来る限り文字に癖を付けて、適当な字でレポートを書いた
もちろん書き取りや教科書の線引だって、適当

先生方に、私だとバレることがないよう

授業ではなるべく目立たないように務めた
真面目に授業に取り組んで成績もそこそこ、地味な子供に徹する


それは魔法薬学の授業も同じ

なるべく目立たないようにするつもりだったが
重たい扉が跳ね返って、大きな音が鳴った瞬間に、諦める事にした

勢い良く入ってきたセブルスは、
まるで学生の頃に戻ったようだ……勿論、悪い意味で

あの調子じゃ、ハリーからガンガン減点する事しか考えていないだろう

出席をとる最中、名前を呼ばれた直後に大きな声で彼を呼ぶ

「先生」

「……何かね」

「すみません、前の席に移動しても?」

「好きにしたまえ」

じっとセブルスの目を見ると、少しバツが悪そうに目を逸らす

確かに、ハリーは見た目ジェームズにそっくり、目はリリーだけどね
あのセブルスがそんなハリーを見て、冷静でいられるとも思わない

出席確認がハリーまでまわってくると、その低い声が一層響いた気がした

「ああ、さよう。ハリー・ポッター。我らが新しい―――スターだね」

猫撫声でそう言うと、つられてスリザリンの生徒が何人かくすくすと笑う

ハリーが今、一番嫌いであろう
冷やかすような笑いが、静かな教室に広がる

「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」

セブルスがゆっくりした言い回しで説明を始めると
その笑いさえもぴたりと止まって、生徒達は耳を傾ける

「このクラスでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれん。
フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち上る湯気、人の血管の中を這い巡る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……」

魔法薬学の教授は、ローブを翻し話を続ける

「諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である。―――ただし、我輩がこれまで教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

セブルスの言葉に、ハーマイオニーはウズウズしたように身を乗り出す
しーんと静まり返った教室で、私はぼんやりと目の前の干しイラクサを見ていた

「ポッター!」

セブルスが叫ぶ

……冷静に対処するつもりはないらしい

頭の中は、ジェームズにそっくりな彼の事でいっぱいなのだろう
珍しく火の付いた友人は、ハリーから目を離さない

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

「わかりません」

……ああ、もう

その薬は6年生の教科書の薬
入学したての一年生が把握しているような内容じゃない

むしろ高々と手を上げているハーマイオニーの方が問題アリだ
勉強熱心なのは良いことだけど、一体どこまで勉強しているのか

どの授業でもそう、彼女の探究心にはつくづく驚かされる

「有名なだけではどうにもならんらしい」

その彼女を無視して、セブルスは質問を続けようとする

……傍から見ていても、とっても陰湿な教師に見えた
この調子じゃあ、嫌われるのも無理は無い

学生時代の空気に良く似た、張り詰めた空気が教室を満たしている

「ポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」

「わかりません」

少し身体を捻ってみると、ドラコ達がハリーを見て笑っていた

ある意味、スリザリンらしいとは思うけど
生徒の教育上と考えると、あまり宜しくない環境

寮監様は、そこまで頭が回らないようだ

「クラスに来る前に教科書を開いて見ようとは思わなかったわけだな、ポッター、え?」

手を天井に向かって真っ直ぐ伸ばしているハーマイオニーを無視して
ひたすらハリーに絡むセブルスを見て、目を伏せる

当ててあげたらいいのに、手がぷるぷるしてて可哀相だ

「ポッター、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

「わかりません」

ハリーが三度目の”わかりません”を出した頃、ついに反抗を始めた
あれだけネチネチとしつこく質問された割には、妙に落ち着いている

「ハーマイオニーがわかっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう?」

生徒達から笑い声が上がると、セブルスの眉間には更に皺が刻まれる
不快度60%くらいか、面白くなさそうな顔をした彼は、ようやくハーマイオニーを見た

「座りなさい」

冷たい言葉に、ハーマイオニーはさっと着席した

―――いくらなんでも、初回の授業でこれは可哀相だ

想定していたけど、こんなにしつこくするなんて

セブルスが過去を払拭するのはそう簡単じゃないと分かっていたつもりだったけど
でも、たかだか11歳の魔法使い見習いに、これじゃあんまりだ

フェアじゃ、無い

私は出来るだけ煩い音が鳴るように椅子を引いて、立ち上がった

「……何かね、ミス・ダンブルドア」

「初めの質問は生ける屍の水薬。材料は先程の二点とカノコソウの根と催眠豆の汁など。完成品は水のように澄んだ色になりますが”上級魔法薬”の記述通りでは完璧な薬は難しいでしょう。ボラージ氏の研究不足、というよりも無駄に手順を増やしてカサ増しされているように見えますが、教授のご見解をお聞きしたい。私としてはあちらを参考書程度にして”実践魔法薬”との併用を考えて頂きたいのですが」

「確かに。上級魔法薬には非効率的な表現が多い、カサ増しというのも頷けるであろう。しかしその中で効率良く作業を進める方法を自ら見出すのもこのクラスで学ぶべき内容の一つだとも私は思うのだがね」

「それでは一年生の授業でその話題はおやめになった方が宜しいでしょう、用意されている教科書は”魔法薬調合法”ですからこの教科書に沿った授業内容にして頂きたい。参考教科書の改定は6学年の方でお願いしますね、NEWTレベルの授業では必要になってくると思いますので。教授の可愛い教え子の為にも、是非」

セブルスの顔がヒクついたのが見えた

貴方がさっきやったのは、こういう事
自分がやられて嫌な事は、他人にもやらないのが一番だ

学生時代に体感しなかったっけ?

「それからベゾアール石は内蔵のような見た目ですが、山羊の胃から採取可能な解毒効果のある石。しかし貴重な材料なので、教授の倉庫を探すほうが早いかもしれません。鍵を抉じ開けられればの話ですよ、勿論」

生徒からくすくすと笑いが起こる

魔法薬学の教授たるもの、倉庫のストックにはいくつか準備がある
もちろん厳重に管理されているだろうから、そう簡単には探せないだろうけど

「モンクスフードもウルフスベーンも同じ植物。アコナイト、トリカブトの事です。ウルフスベーンは”狼殺し”という意味で、近年ダモクレス氏の開発された薬品にも使用されています」

「……座ってよろしい」

一通りの説明とオマケ程度の小話をセブルスへの意地悪も込めて話し終えると
着席を促されたので、笑顔のまま腰を下ろした

「諸君、なぜ今のを全部ノートに書き取らんのだ?」

セブルスが睨むように生徒を見ると
全員が一斉に羊皮紙と羽根ペンを取り出す音がした

「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは一点減点」

……理不尽な減点からは、逃げられそうにない



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