dream | ナノ


act.015

卿特製GPSネックレスのおかげで
5年ぶりの再会を果たした

ここはマルフォイ家の別荘の一つだと聞いたが、マグルと同じくお金持ちになるといくつか所有しているのが当たり前だそうだ

その一室でお茶とお茶菓子を頂きながら
失踪している期間に何があったか、という軽い尋問まがいの質問責めを受けていた


「ホグワーツなぞ辞めてしまえ、勉強なら私が教える」

「なに言ってるんですか卿」

お茶を口に含んで、一息ついて落ち着いた途端にこれですよ
私が消えてしまうのがそんなに面白くないのか
辺りの空気が落ち着いてからも、私の隣をキープし続ける卿がいた

真横、ちょっと上から降ってくる言葉に呆れてしまう

「大丈夫ですって!私ホグワーツでも優等生ですし」

「いやだめだ」

「成績だって良いし、問題も起こしてないです」

「だめだ」

「卿の育った学び舎で、折角名誉あるスリザリンに入れたんですから」

「……それとこれとは」

スリザリン

その単語を出すと卿の瞳の奥が揺らいだ
これだ、これで押すしかない
私はその一点に集中して言葉を搾り出した

「私も卿と同じく、スリザリン生として卒業したいんです」

「……」

「ダームストラングだって4年までしか行ってないんですから」

沈黙して視線を逸らす
ホグワーツはいけ好かないが、スリザリン生としての誇りはあるんだと思う
何より彼のご先祖様が、サラザール・スリザリンなのだし、そこが気にかかるのだろう

もうひと押し

「お願いします、卿」

姿勢良く、手も添えて、ぺこりと頭を下げる
卿は顎に手をやって、何か考えている様子だった

「……ルシウス!」

しばらくして卿が舌打ちで沈黙を破り、ルシウスさんを呼び付ける
部屋の外で待機していたのか、姿現しか
どちらか分からないが、すぐに彼は飛んできた

「はい、御用でしょうか」

「こいつの世話をしろ、学校生活のバックアップも全面的にだ」

「かしこまりました」

「えっ、ちょっ」

仰天する私を無視して、更に卿は廊下へ視線を向ける

「レギュラス、といったか」

「は、はい!ここに」

ドア横からレギュラス君が飛び出してくる
卿を盲信している彼は、名前を呼ばれた事に驚きつつもハキハキした表情近づいてくる

「任務をやろう、こいつの護衛と監視だ」

「はいっ」

それから……と言いかけた卿の言葉を遮り、私にとって良からぬ事を画策している彼を制止する
このままではお屋敷中、もしくは外の死喰い人も呼びつけて、ありとあらゆる事を言い付けてしまいそうだ

「ちょっと待ってください!そんな、ルシウスさんだって忙しいだろうし」

「ルシウス、忙しいか?」

「いいえ、あなた様の御用命が第一です」

ほらな、とでも言いたげにニヤリと笑う卿

ルシウスさんを見ると、僅かに申し訳なさそうな表情をしている
いつもこんな無茶ばかりで、本当、死喰い人の人達は苦労するだろうな

「レ、レギュラス君だって学年も違うし……!」

「問題ありません」

きっぱりと言い返してきた
憧れの卿に任務とやらを仰せつかったのが、相当嬉しいようだ

見習いの割には、結構活躍はしている
いや、あまり好ましくない活躍なんだけれども

「ホグワーツに戻るのにこの条件が飲めないのであれば、今すぐ杖をへし折ってやる」

ルシウスさんとレギュラス君による全面的な保護
何時、前みたいに消えるかも分からないのだから、気持ちは分かるけど

柘榴色の瞳が、こちらを見つめる

「……わかりましたよ、もう」

「それと、次のクリスマス休暇はこちらに帰って来い」

「ええっ!?」

リリー達も学校に残るっていうから、皆でクリスマスパーティーでもしながら、まったり過ごそうと思っていたのに!
友達が増えてから初めての行事で、結構楽しみにしていたんだけど

多分、グリフィンドールって言っただけで機嫌が悪くなるだろう

「グリフィンドールのご学友と、ご予定があるようです」

「な、何で知ってるの!?」

「以前から監視はしてましたので、これくらいは」

目の前で堂々と告げ口をした彼は、無表情のままそう言い放った

横から感じる威圧感が、どんどんと禍々しくなるのを感じる

「断れ、いいな?」

「……はい」

ああ、ごめんねリリー
ドラゴンも逃げ出しそうな形相の卿に歯向かうなんて、私にはできない……

ルシウスさんとレギュラス君も、その表情を見て凍り付いている

「全く、どうしてお前はいつもそう……」

お説教じみた内容が次から次へと卿の唇から紡がれる
腕を組んで、溜息混じりの言葉が耳に痛い

なんだか、似ている


「お父さんみたい」


…………し、しまった!


つい思っていたことがそのまま口から零れてしまった
ただでさえ血色の悪いルシウスさんの顔色が、どんどん青くなっていくのが見えてしまった

ぎこちない動きで首をゆっくりと動かし、隣の卿を見ると
杖を構えていた

「ッアバダケダブラ!」

「ぎゃー!」

緑色の閃光が視界中を飛び回り、私を狙う
ばちばちと壁やら家具やら、そこらじゅうに当たっては飛び散って消える呪文

流石に死んでしまうと思ったか、ルシウスさんとレギュラス君は脱兎の如く部屋から逃げ出した

「あれ!?護衛は!?」

「無理です死んでしまいます!」

ドアに向かって声を張ると、潔い返事が返ってきた
護衛といえど死の呪文には立ち向かえないようです

確かに、これで生きてるの今のところ私だけだし

小さく息を吐いたところで、視界に黒い影が入り込んだ

「もう一度言ってみるか?」

「ごめんなさい!口が滑りました!忘れてくださいー!」

これ以上暴れられたら、部屋が酷いことになりそうだった
アジトでもなんでもない、ルシウスさんのお家だし

「失言には気をつけろ、鵜頭が」

「き、気をつけます」

5年経って、意地悪な感じと共に俺様度と我侭度も上がっているように感じた
これに付き合う死喰い人の人達の労力を考えると、涙が出そうだ

振り回されているのは、私も同じようなものだけど

疲れた卿は、ソファの無事そうな部分に腰掛けて一息つき、ようやく杖を下ろした

「名前」

「……はい?」

ひょいひょい、と杖を振って部屋の修復をする
棚の欠片や飛び散ったガラスが意思を持つように動き、空中を行ったり来たりする

それらが元の場所へと帰っていくのを見ながら、返事をすると
彼の口から、またぽつりと言葉が紡がれる

「クリスマス、何がほしい」

「え、えーっと……」

頷く卿を見て、頭の中で以前のクリスマスを思い浮かべる
クリスマスの醍醐味、一つやり忘れていたのがあった

「プレゼントの交換、しませんか?」

「プレゼント交換?」

「私、卿に貰ってばかりですし……お互いの喜びそうなものを贈り合うのも、たまにはいいかなーと」

「……考えておこう」



ある程度、部屋の修復も終えたあたりでレギュラス君がやってきた



「すみません、そろそろ学校に戻らないと」

「ああ……早くしないと、晩ごはん食べ損ねちゃうね」

壁際に佇む大きな時計で時間を確認すると、既に晩ごはんの時間を過ぎていた
散々散らかした一室も、魔法があればすっかり元通りだったが

ホグワーツには、どうやって帰ればいいんだろうか

「もしかして」

「もう一度、だ」

胃の中身がぐるんぐるんと回るような、独特の浮遊感があまり得意ではないのだが
これでまたホグワーツから私達が消えたことが誰かに知られたら、更に面倒だ

「これってホグワーツの保護呪文に引っ掛かったりしないんですか?」

卿や死喰い人でさえ手こずっていた難攻不落の要塞、ホグワーツ
それを行ったり来たりして、果たして大丈夫なのか
卿の腕は信じているが、非常に心配だ

「お前達のような生徒くらい、どうと言うことはない」

ようは、彼らのような卒業済みの外部の魔法使いでは駄目なようだ

それでも今は闇の帝王が息づく、少し前
近代ほど保護呪文が何重にも重ねられてはいないのかもしれないが
それはホグワーツの主、ダンブルドアしか知りえない

とりあえず、私とレギュラス君は学校に帰れるらしい

「ええと、じゃあ。お騒がせしました、お茶美味しかったです」

主にルシウスさんに向かって、頭を下げる
他人の家でこんなにバタバタしたのも初めてだし、彼は彼で心労も耐えないだろうし

「また、お会いできるのを楽しみにしております」

血色の悪い顔は相変わらず、色素の薄い髪を重力に預けてお辞儀をしながら、彼は小さな声で言った

「ええ、また!あ、卿。これからは滅多なことで移動キー使わないで下さいね」

「それはお前が」

「ちゃんと戻ってきますから、ね」

「……ふん」


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