dream | ナノ



* * *


古びた石壁、動き回る絵画の住民達
いつもの見慣れた風景に、ほっと胸を撫で下ろす

もう何度か移動キーを使っているせいか、あまり気持ち悪さは感じなくなってきた

こつこつと靴の音を響かせながら、人気のない廊下を歩く
護衛の命を受けたレギュラス君は、ぴったり隣に付いてくる

「……ずっとそうやってついて来るつもり?」

「そのつもりです」

歩くペースだってレギュラス君の方が速いのに、スピードも歩幅も私に合わせてついて来る

「大変だね、見習いなのに」

「いえ、光栄なことですから」

「……あ」



「名前」

大広間の手前で、見覚えのある顔がきょろきょろと視線を泳がせていた
私を見つけるとすぐに声をかけて、こちらへやってくる

「セブルス、どうしたの?」

「あ、いや……授業が終わってから、お前を見掛けなかったから」

「ごめんごめん、ちょっと野暮用で!」

まさか学外に出て闇の帝王とお茶してました、なんて言えるはずも無く
申し訳ないが内容は濁して、私は苦笑いを顔に貼り付けていた
ふと彼の視線は、私の真横にスライドする

レギュラス君と、セブルスの視線がかち合う

なんだかどちらが口を開いても、余計な事しか言われなさそう

「あ、あー!お腹すいたなー!セブルスごはん食べた!?」

「ああ、もう済ませたが……」

「私ご飯食べたらすぐ寮に戻るから!」

かなり無理矢理、話題を逸らす

くるりと足を大広間の方に向けて、じゃあ!と手を振って
2人がぽかんとしている間にそそくさと中に滑り込んで、入り口から遠い席に向かった

すでに食事を終えた生徒達は、この後の予定で忙しいのか早足だ
寮に戻る生徒達とすれ違いながら、人気の無い一角に着席する

しばらくして、レギュラス君が後を追ってきた

「名前さん、いきなり視界から消えないでください」

「いや、だってさ……」

一足先に皿に取り分けていたチキンを、ぐさりとフォークで突き刺して口へ運ぶ
顎を動かす度にジューシーな肉汁が口いっぱいに広がる
うん、今日のごはんも美味しいです

「お腹空いてたし、仕方ない仕方ない」

ほら、とパンを彼に渡す

「チキン食べる?」

「……いえ」

間の抜けた質問に、彼は小さく息を吐いた
肩の力が抜けたのか、そのまま気だるい雰囲気を纏いながら、私の横に座って静かに食事をとり始めた


青々としたグリーンサラダを口に放り込むのと同時に、
視界の中にに見慣れたブルーのローブが映りこんだ

「ほほ、良く食べるの」

「…、ダンブルドア先生」

慌てて口の中のものを胃の中へ押し込んで、言葉を発する
綿飴みたいにふわふわの白い髭を揺らしながら、私達の食事風景の感想を述べたのはダンブルドアだった

「もう、ここには慣れたかの?」

「はい、おかげさまで」

多忙な校長と話す機会はここにやって来て以来、あまり無かった
このタイミングで彼から話しかけてくるのは、何かあるような気がした

卿の移動キーが勘付かれた?
いや、それはないと本人が断言していた

頭のいい彼なら、私の面倒を見てくれているセブルス以外の生徒
しかも後輩と一緒だということで、何か思うところがあるのかもしれないが

瞳の中で、お互いの思考が渦巻く

「もう少しでクリスマス休暇じゃが、何か予定はあるのかね?」

「……僕の家にお招きしてます」

無言で私と校長のやり取りを眺めていたレギュラス君が、ふと口を開いた

ただ戻って来い、とだけ言われていたので、クリスマスを一体どこで過ごすのか?
それがさっぱり頭に無かった私にとって、ありがたい助け舟を出してくれた
護衛兼監視なら、恐らく彼も同行するだろうし……まぁ、嘘でもない

「ええと、ブラックさんとこにお呼ばれしてまして」

少し動揺が言葉に混ざってしまったが、気にせず続ける

「おお、そうか。彼のご実家に?」

「そうです。なんだか、慕われてしまったようで」

苦笑いと同時に目を逸らして、レギュラス君を見るが
能面みたいな無表情で、フォークでレタスをつついているだけだ

これじゃあ家にお招きするような仲に見えないよな、とも思うが

「……なかなかやるの、お主」

「いや、あの、そういうアレじゃないんで!ほんと!」

彼には、レギュラス君が恥ずかしがっているように見えたのかもしれない
ダンブルドアが話を茶化したのは、これ以上は深入りしないという意味か

校長はご機嫌な足取りで、私達に背を向けて広間を出て行った

「恥ずかしがりや2名に、見えたのかな」

「とりあえずクリスマスは僕の家へ、ということで」

「それで行くしか、ないよねぇ」

はぁ、と一息ついてカップに入っていた飲み物で喉を潤す

「名前さん、寮へ戻りますよ」

食事を終えたと判断したレギュラス君が立ち上がる
少し疲れたせいか、自然と横をキープしてくるのにもなんだか慣れてきてしまった

「寝るときもそうするの?」

「……っそんなこと!起きている間だけです!」

声を荒げた彼は、慌てて私の言葉を訂正した
忘れていた、大人びて見えるけど彼は年下だ

からかうような発言をしたのを反省し、寮へ向かった



ダンブルドアと、セブルス、友達

レギュラス君と、卿

皆を欺きながら、日常は続く



もうすぐ、2度目のクリスマスがやってくる





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戻ってきた日常

欺く心


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