胸に鈍い痛み
2人と分かれて、国語準備質に向かう。
気持ちの整理を付けるために。好きだって、ちゃんと言うために
『(………そういえば、鍵開いてんのかな)』
そんなこと考えたけど、すぐに無駄だと気付く。だらしない銀ちゃんが、国語準備室の鍵をかけるはずも無かった。
『失礼…します』
誰もいない(のであろう)部屋にも一応、声をかけてから入る。居たら、困るし
…返事、無いよね。
確かめ終わって、思いっきり泣くつもりだったのに
「…旭?」
『、え……』
雑誌を、顔にのせて、ソファーに見覚えのある人物が寝転がっていた。
それは、晋助だった。
…どうやら、あたしには泣く時間はないらしい。
「…お前、授業どうした?」
『………サボッ、ちゃった…』
「サボ……!?…………いや、俺には言えねェけどよ。お前は、模範的優等生みたいなモンなんだから…」
『たまには、さ。いいでしょ、サボるのも』
「まぁ、な。めずらしいから、驚いた」
お互いに、苦笑するだけで、会話は全く弾まない。
何でこんなに、気まずいんだろう?なんて、本当は分かってるくせに問いかけてみる。
こんな時に、気の利いた話でも出来ない自分に苛立つ。
だけど、それ以上にただ黙ったままで居る晋助にもイライラしていた。
…しゃべってよ
『…………あの、さ』
「なに?」
『何か…しゃべろ?』
「あ、あぁ…」
何で黙ってんのかくらいは、分かる。
まだ朝あたしが言ったことを気にしてるのは確実だ。結構根に持つっていうか、気にしすぎる?晋助は、そうゆう性格だから。誰より孤独を知っているからこそ、1人を怖がって…誰かと繋がりを持っていたくて、力で支配しようとしてること
だからこそ
『あ、名前先生から伝言預かってんだけど』
「!……なんて、聞いた?」
『今日の6時に、神社のとこ来て、だって。そんで、携帯こっちから繋がらないから電話してって』
「…ありがとな」
晋助は、照れ隠しするみたいに、俯いて笑った。
その動作のひとつにも、胸が、ちくん、ってした
いわなきゃ
次は、あたしが
あたしがちゃんと、晋助に好きって、いわないと
『あの…こんな、幸せ絶頂の晋助には悪いんだけど』
「どうした?……旭」
『あたしもう、晋助と名前先生のこと応援、出来ないや』
「………なん、で」
何で、これでも、分かんないの?
それとも、今までずっと、気付かないふりしてたの?あたしが晋助のことどれだけ―…
『……だっ、て くるしいんだもん!2人が、一緒にいるのなんて、見てると…。息、できないくらい、胸が、ぎゅって締め付けられて、痛、くて…毎日しんどくて……。毎日、いっぱいいっぱい泣いて、それでもあたし、頑張ってた。本当は、"友達"としてなんて、晋助のこと見たこと無かったのに!周りに、友達なんて、親友なんて言われたって、何にも嬉しくなかった!晋助に、「友達だろ」なんて言われるたびに、あたしは、好きな人にはなれないんだって、ずっと思ってきた!分かんないでしょ!?晋助には、分かんないよ!あたしがずっと、どんな想いでアンタと一緒にいたのかも、今こんな風に、伝えることでも精一杯なことも、報われないって分かっててこんなことしてる理由も全部!!そ れでも、それでも、言いたかったことも』
言って、しまった。
『しん、すけ、が』
これでもう、戻れない。
友達にも、親友にも、だけどそれでも
『すき 』
言いたかった。
伝え、たかった
「冗談………だろ?」
動揺した晋助に、無かったことにされそうで、あたしは、ただ黙って首を横に振った
ちょうどその時、授業が終わるチャイムが鳴って、頭の隅の方で、恋が終わったんだなぁと思った。
高杉side
冗談だ、と言って、笑ってほしかった。
いまここで告白された、って事は、今まで通りに行かなくなることくらい、分かっていたから
あの店で、一緒にコーヒー飲むことも出来なくなるってことも
しょうもないことでダベんのも、笑いあうことでさえも
『ずっと、好きだった』
今まで見た笑顔の中で、一番悲しそうだったのに
今まで見た笑顔の中で、一番綺麗だった
俺は結局、本当の旭なんて、見たことが無かったのだと、気付いた
胸に、鈍い痛み
(何で、だ。俺が好きなのは…)
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