築25年、すきま風はひどいけど南向きだし、近所の子どもたちがたまに肝だめしに来る以外は静かだし、なんだかんだで居心地のいいアパート、わたしの部屋。
鍵をがちゃがちゃ回して 外れそうなドアノブをひねり、中が見えたとたん 伊助ちゃんは悲鳴をあげた。


「きたないっ!!」




「もう!仮にも女のひとのひとり住まいなんでしょう!こんなに散らかしててどうするんですか!」
「…はい…」
「使ったものはもとの場所に戻す!せめてこれだけでも徹底してください!」
「…すいません…」
「洗濯物ためてないだけいいけど、これじゃ団蔵と虎若の部屋よりひどいよ…」


ぶつぶつとお小言を投げつけられながら、実家のお母さんが来たときみたいだなあとおもった。最後に来たのはもう一年以上前か。あ、あとあれにも似てる。ハイジに出てくる家庭教師みたいな…ロ、ローリングストーンズさん?

伊助ちゃんはいろいろ言いながらもてきぱきと手を動かして、ときおりこれはなんですか?とか、どこにしまいますか?とか聞いてきた。あ、それはドライヤーです その奥の棚に、と返しながら、わたしは部屋の隅で正座。

なんてシュールな光景だろう。

素人とはおもえない手際のよさで片付けを進める小学生のおとこのこに叱られて正座する二十代の図 はその後も小一時間つづき、少しずつきれいになっていったワンルームは とうとうかつてないほど整頓された部屋へと変貌した。


「す、すごい!」


ここに越してきて数年、こんなに床が見えてたことがあっただろうか、もちろんない!

わたしの部屋も本気出せばこんなにきれいになるんだ!

あまりの変化に驚いて立ち上がろうとしたけれど、ほとんど感覚のなくなった両足のことを忘れていた。
い、いだだだだっ と床に倒れこんだわたしに、伊助ちゃんが駆けよってくる。


「だ、だいじょうぶですか!?」
「正座してたら…」
「…してたら…?」
「…足しびれた」
「……」


つぶれた空き缶を見るような目つきが突きささるのを感じたけど、きれいになった部屋への感動はそれをも軽く飛びこえて、わたしはついつい伊助ちゃんの頭をぐしゃぐしゃなでた。


「ありがとー!」
「わ、わーっ!髷が!」


髷って。忍者ごっこも本格的だなあ。


あるべきものがあるべき場所へ、ただそれだけのことでずいぶん広くなった部屋の窓を開け放す。冷ややかな風がぴりっと肌を刺して、ほこりっぽい空気を外へ連れ出していった。



その夜、部屋をきれいにしてもらったお礼に 伊助ちゃんといっしょに夕ごはんにした。もちろんカレー。わたしはカレーしか作れないのだ。応用編でシチューもぎりぎりいけなくはない。

伊助ちゃんは最初カレーを訝しげに見つめるだけで、スプーンの柄の部分でつんつんとにんじんやたまねぎをつついていた。
わたしが先にぱくぱくと食べているのをじっと見てからスプーンを持ち直し、ひとくち口に入れるとおいしいと言ってくれた。


ごはんを食べ終えるころには外も真っ暗で、よく場所のわからない伊助ちゃん家まで送っていくのはちょっと難しい感じになってきて そうすれば必然的にお泊まりということになる。


うちに誰かが泊まりにくるのなんて、考えてみれば学校行ってたころ以来だな。


ぜんぜん知らないよその子どもなのに、夏休みに親戚がわあっと田舎に集まって泊まるときのような、どこかわくわくした気もちに 足首のあたりがくすぐったくなる。年甲斐もないって、こういうことを言うのかも。


110921



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