ふっと我に返ると、足が勝手に忍術学園へと続く道を歩いていた。そうか、秋休みが終わって今日から新学期なんだ。初日からこんなぼうっとしてたんじゃ先がおもいやられるな と頬をたたく。気合いを入れようとすればするほど、さっきまで実家にいたはずなのに なんだか父ちゃんの顔も母ちゃんの顔も記憶に遠くて、すごく長くこの道を歩いているような、変な錯覚を起こしそうになる。


顔をあげると 真っ直ぐ伸びる道のずっと先の方に、こちらに手を振る三つの人影が見えた。かすかにだけれど、おーいという声もする。


「伊助ー!」


あれは乱太郎、きり丸にしんべヱだ。


ひさしぶりのは組にうれしくなって僕も駆けだす。分かれ道のところで待っていてくれた三人は、ひさしぶり と出迎えてくれた。


「あれ?伊助、なんだかいい匂い!」


しんべヱが、顔を合わせるなりくんくんと鼻をよせてくる。言われてみれば着物からも髪からも かぎ慣れない甘くて清潔な匂いに、香ばしい匂いがすこしだけ混ざったような匂いがした。


「なんだろう?へんなの」





「それでさ、土井先生ったらまーた隣のおばちゃんにお見合いの話持ちかけられて困ってたんだぜ」
「土井先生はどんなお嫁さんがいいのかな」
「料理上手なひとだよ!」
「それはしんべヱの希望だろー」


三人といっしょに学園へ歩きながら、秋休みに起こったたわいもない話をする。さっきからどうやっても何かがもやもやして 足もとの小石を蹴っていた僕に、乱太郎が振りかえった。


「ねぇ伊助、伊助は土井先生にはどんなお嫁さんがあうとおもう?」
「えっ、僕?」


急に話を振られて考える間もなかったけど、なぜかするすると答えは出てきた。


「ちょっとだらしないくらいの女のひとがいいんじゃない?」


乱太郎、きり丸、しんべヱはぱちくりと瞬きをくりかえしたあと、お互いに顔を見合わせた。
…僕、変なこと言ったかな。


「めずらしいな、伊助がそんなこと言うなんて」
「あんまり伊助っぽくない答えだね」

「…そ、そうかなあ」


たしかに自分でも 根拠はよくわからないのだけれど。土井先生のお嫁さんについてなんて、考えたこともないし。


「まあでも、土井先生神経質すぎるところがあるからなあ。適当なひととの方が、案外うまくやってけるかも」
「言われてみればそんな気がするね」
「それでも料理上手じゃなきゃ!」
「だからそれはしんべヱの希望でしょ!」


声をあわせて笑う三人につられてくすくす笑いながら、差し迫った授業の時刻に気づいて走りはじめる。

上を見上げたら真っ青な空。さみしい姿になった木に 一枚だけ残った枯れ葉が揺れて、なんでだろう。とてもなつかしくなって立ちどまる。


青い空にとけてしまいそうな朽葉色を どこかでながめていたような、


「伊助ー!置いてっちゃうよー!」


強い向かい風に乗って、道の先の方から乱太郎の呼ぶ声がする。


「あ!待ってー!」


よく晴れた秋空の下を 僕はまっすぐ駆けだした。


きょうから、新学期がはじまる。


111003



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